★小説〜伯妖連載〜★

□このままずっと……
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応接間に着くと、鼻をつまみたくなるようなきつい香水の匂いが広がっていた。

「ちょうどこの近くを通った時、リディアさんのことを思い出して、そう思ったら急にあなたに会いたくなったから、来てしまったわ」

扇子をパタパタとあおぐものだから、向かい側に座っているリディアのところに余計、香水の匂いが流れ込んできた。

「それは……、ありがとうございます」

少し息を止めるとなんとか堪えることができた。
そこへケーキとお茶のセットが、ワゴンで運ばれてきた。
その時の公爵夫人の顔は、キラキラと目を輝かせながらそれをじっと、目で追っていた。
テーブルに紅茶が注がれると、メイドは顔をしかめながらさっさと、ドア側に行ってしまった。
よっぽど、この香水の匂いがこたえたのだろうか。
リディアもできるなら、この場から逃げ出したいぐらいだ。
そしてリディアがお菓子を勧めると、待ってましたと言わんばかりに凄い勢いで口の中にお菓子を頬張りはじめた。
思わず呆気にとられた。
今まで公爵夫人と一緒に何度か、食事をしたことがあったが、こんなにマナーが下品ではなかった。
ボロボロと口から食べかすはこぼれ、思わず目をそらしたくなる。
本当にこの人は貴族かしらと思ってしまう。

「あっ……、そうそうリディアさん」

紅茶を流し込んで落ち着いたらしく、ようやく喋りはじめた。

「明日ウォリン伯爵邸でお茶会が開かれることになったのよ。あなたもぜひ出席なさいな」
「お茶会、です……か」

今日だってまだ仕事が半分も終わっていないのに、明日のお茶会などに出席したら、依頼の仕事が明日中に終わることができなくなる。
でも今後のことを考えたら……。

「……ええ。喜んで」

こんなことでエドガーに迷惑をかけるわけにはいかない。

「あなたなら絶対に来ると思ったから、ウォリン伯爵夫人には伝えているから」

えっ?
リディアの知らないところで勝手にそんなことをされていることに、驚きの表情は隠せなかった。
グレルリン公爵夫人はそんなリディアの様子を見て、楽しんでいるようにみえた。
もしエドガーがこの場にいたら、うまくやり過ごせるかもしれないが。
いやそもそも公爵夫人は、エドガーが不在などを知ってて、この話をもってきたのかもしれない。
初めて彼女と会った時から、中流階級出身のリディアの存在を快くは思ってはいなかった。
エドガーの前ではそんな態度はみじんにも出してはいなかったが、彼がいないところではあきらかに、態度が違っ
ていた。

「あなたはまだ、上流階級のことについて色々と知らなさすぎだから、明日はみっちりと教えてさしあげるわ」

その言葉に、リディアは自分のティーカップを持つ手が震えるのがわかった。
笑顔を出すのも忘れ、顔を引きつることしかできなかった。
目の前の公爵夫人は再びお菓子を食べ始め、紅茶のおかわりを要求していた。




                   
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