虚弱王子、怪力王女
□政略結婚
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◆政略結婚
ある晴れた昼下がり
南国セイスティアの宮殿に王女の姿はなかった。
「またか…。」
このお転婆具合も大概にして欲しいところだと王女付き世話役レオナルドは溜息をついた。
***
「はぁぁっ!!」
バキッ、ズシン!メリメリッ!!
一本の大木が地面にめり込んだ。
「ふぅ、これで通れるようになりましたよ」
パンパンと手をはたきながら、爽やかに言う少女の姿があった。
この少女こそセイスティア王国第8王女ミラルダである。
「ああ…、ありがとうございます」
「本当に有り難い」
少女に対し口々に御礼を述べる民衆達。
ミラルダは、強風で橋の上に倒れた大木を退けたのだ。
素手で。
「大の男の腕を持ってしてもびくともせんでなぁ…」
老人が関心したような、少し怯えたような口ぶりで話した。
「その辺の男と一緒にされては困りますわ。私は体術、剣術、馬術全てを会得しておりますので。」
「流石はミラルダ様」
ミラルダは満足げに微笑み、頷いた。
「では、そなたらは早う行くがよい。」
民衆はミラルダに促されて橋を渡って行った。
「では、私も帰りましょうか。奴が煩いでしょうし。」
「奴とは誰のことです?、ミラルダ様」
「きゃあっ」
ミラルダは世話役レオナルドの存在に全く気付いていなかった。
*
「いったい、貴女は王女としての自覚がおありなのですか?」
「………」
「もう子供ではないのですから、少しは王女らしく振る舞われたらどうです?」
「………」
あの後、ミラルダはレオナルドに引きずられるようにして王宮の自室に着き、長い説教を受けていた。
説教嫌いなミラルダは始終むくれている。
ミラルダの見た目は華奢で可憐さがある。
ウェーブがかった美しい栗色の髪に、陶器のように白くきめ細かな肌。バラ色の頬と唇。大きな深緑の瞳。筋の通った鼻。
そこに大木を素手で退けるような力強さはない。
それに、本人は気付いていないが、見る者を惑わすような美しさがある。
そう。本人は気付いていないが、ミラルダは南国屈指の美女であった。
だからレオナルドは、ミラルダが無断で外出する度に不安に駆られ、必要以上に叱ってしまう。
ミラルダを王女と知らない奴には何をされるかわかったものではない。
ミラルダは体術、馬術、剣術全て一流の腕前を持ってはいるが、所詮は女である。
万が一のことだってある。
王女を慕う者の一人として、レオナルドはいつも心配していた。
「はぁ…。今日はこの位で許してあげましょう。自覚と節度を持って、あまり心配させないで下さい。」
「…悪かったわ、レオ」