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それから俺は学校を卒業してすぐにその人、レイリーさんのお店を手伝おうと心に決めていて。
最初こそレイリーさんは渋っていたのだが俺の熱意に負けたらしく、微笑んで俺の頭をぐしゃりと撫ぜた。レイリーさんの温くて大きな手のひらに笑みがこぼれる。

レイリーさんのお店はいわゆるお水系だった。
といっても一番最初になんの店かは自分で調べていたから、別に驚くことはなかったのだけど。

そして、お店に勤めてレイリーさんの教えのお陰もあって俺はそこでそこそこの地位を確立していた。

顔などは他の女性に比べて劣るものの、レイリーさん曰く『男は女の仕種一つにも恋するものだ』と遊び人だけあって男心をわし掴むなんたるかを知ってるようだった。

けど、時折それってレイリーさんの好みなんじゃないか…と思うことがあったが。

そして、そこで何年か勤めた後、ある男性に出会った。
最初は無愛想で一体この店に何しにきたんだと思うくらい、誰もとらずに酒を飲んでは帰る変なやつだった。

そいつに接客するのもイヤだったが、その時は店が混雑していていつも酒を運ぶやつが不足してたもんで。仕方無しに俺がそいつの酒を持っていくはめになった。
こいつは無愛想でここを居酒屋代わりにしていたやつだが、金持ちなのか羽振りはよくて百万超えする酒がいっぱい置いてあり、そういやいつも高い酒ばかり頼んでいたのを思い出した。

にぃ!込み上げる笑みがおさえられない。
いいカモになりそうだぜ!とカラになっているグラスに酒を注いでやる。

一瞬しかめっ面をしたがそんなのは気にしない。
微笑んで…はしたくなかった、愛想笑いはそんな好きじゃなかった。よくレイリーさんから怒られていたが。(でも、俺の笑顔はレイリーさんのためにとっておきたかったのだ)

しかし、普通に話し掛ける…といってもこの仏頂面な男にどう話題を切り出すか。格好からしても、十字架のかかれた黒ジャケットとか…。
こういうよみにくい相手は苦手なんだよな、しかし、こいつからなんとしても金を巻き上げてやりたい。

ちら、と横目に相手をみても女性がいるというのに構わず酒を水とばかりに次々と開けてはカラにしていく。

「つまんねェな…」

手近にある酒をとって勝手にぐびりと飲んで。

「――ギャアッ!しまったァァ!」

あんまりにもこいつが無愛想で取っ付きにくいやつだからか、確認もとらずについ。

まずい、と男に目をやると、なぜかうずくまっている。なんだどうした?!
まずい、身体が心なしか震えているきっと怒っているのだろう。

「お、おい…」

「ククッ、フハハハハ」

ぎょっとする。
まさか取っ付きにくい男からは考えられないくらいの快活な笑い声にぽかんとする者もいる。

「…面白いな、名前は?」

「ば、バギー、だ」

「そうか…」

それからは男は俺だけを指名するようになった。
だからといって話が進むというわけじゃなかったものの、来ると必ず高価なものをくれるようになる。
しかしセンスがそんなによくない。
みた感じ高いのだろうが残念ながらセンスがほぼ感じられない。

それとなく伝えてやると、「それなら好きなものを選べ」といって店から連れ出してジュエリーショップに連れ出されたときはびっくりした。


それからも何度か個人的にあうことが多くなって、やはり大人になると身体の関係が生まれてくるし今までもたまにあったし、こいつもそうだった。

ただ、違うことといえば見た目に反してとても大切に扱ってくれた。壊れ物を扱うように繊細に。

何度となく身体を繋げた。

ふとある日この関係がこわくなった。

触れ合う度に不安に思う。

男はふらりと現れては、自身を抱くのに満足したのか、朝方には温もりを残して消えて。

何故、自分を抱くのだろうか、と。

しかし、問うても男は優しく微笑するだけで答えてはくれなかった。

不安だった。

自分が男に惚れてしまうことに。

自分はただの、商品にしかすぎないのだから。

バギーは決心した。

此所を出ようと。

元々ここで働いていたのは、レイリーさんがここを経営してたからだった。
だから、その人の隣りでこんな自分でも力になりたいと思い、今まで働かせて貰っていたのだが…。


「勝手なのは分かってます・・・」

きっと呆れられる。
それはそうだろう、首を振るレイリーさんに自分は頼みこんで働かせて貰って。
わがままな女だと、罵られても仕方ないと覚悟を決めて言う。

すると、笑って昔のように優しく頭を撫でるその人の暖かい手に思わず驚いて、つい身を引いてしまった。

しかし、それでもその人は嫌そうな顔など一つもせずに眼を細めて笑っていかけた。

「そうか、よく決心したなバギー。」

「え、咎めない・・んですか・・」

咎めるも何も俺から言ったのだから、ひょっとすると自分が思う以上に面倒をかけていたのかもしれない。

「娘がようやっと自分のしたいと思うことを見つけたのだ、それを咎める親などいるものか」

少し淋しくなるな、と言った眼は慈愛にみち満ちていた。

「・・勝手なことばっかで、すみません・・お世話になりました・・」

ぐじぐじと涙を流しながら、今までのことを想いながら礼を述べた。


「・・旅立ちは明日の朝にして・・今日はゆっくりと身体を休めなさい。今まで私なんかのためによく働いてくれた・・お礼を言わなければいけないのは私の方だよ・・ありがとうバギー」

「う゛う゛〜・・レ゙イリーざあ゙あ゙あ゙ん!!!」


泣きじゃくる俺を、抱き締めて、優しく背中を撫でながら、あやしてくれるレイリーさん…。

次の日、なにからなにまで旅立つための荷物が詰め込まれていた。
しかも何気に『初めての一人暮らしに役立つ!』という本がカバンの中に入っていた。


レイリーさんって結構親バカだったのか!




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