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□【 恋・愛・相・談 】
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「ところで」

「はい?」

「仕事については土方さんに相談するとして……恋愛については誰に相談したらいいと思う?」


「れ」









【 恋・愛・相・談 】












 一瞬、悪い夢でも見ているのかと思った。

 しかしこれは現実で、大石はしれっとしたいつもの顔つきで「恋愛」と口走ったのである。


 「恋愛」って!!


 鈴花の頭の中でぐるぐる渦が回る。

 大石が「恋愛」。

 考えられない。

 武田が「巨乳」について熱く語るとか、山崎が実はふんどし着用くらいありえない(だったらどうしよう)。

 しかし。

 もし本当なら興味がありすぎる。

「私!! 私!!! 私に聞いて下さい!!!」

 飛び掛かる勢いで食い付くが、大石はキッパリと、

「嫌だよ」

 と答えて明ら様に不機嫌な顔をする。

「な、なんでですか? 私こう見えて恋愛免許皆伝くらい色々知ってるんですから!!」

「何だいそれは。知らないよ。とにかくあんただけは御免だね」

 つれなく言い放たれて、ますます好奇心に火がついてしまう。

「え〜、じゃあどういう相談かだけでも教えて下さいよ。その話題に合った人を紹介しますから!!」

「どういう、ってねぇ……」

 大石はますます顔色を難しいものに転じていく。吊り目がすわっている。

「あ、そうか」

 不意に、その口元にいつもの笑みが浮かんだ。

「あんたが困った時によく相談する相手でいい。あんたがここで一番頼りにしてるのは誰だい?」

「え? それでいいんですか?」

「うん」

「それなら……」

 幾つかの顔を浮かべ、一人を選び出す。

「頼りになるかは別にして、話すと気が楽になるのはやっぱり、梅さんかな……」

「へえ、なるほど」

 大石は満足そうに笑った。


「なら、いなくなったら困るね」


「え? そりゃまあ……」

「よくわかった。じゃあ土方さんのところに行くことにしよう」

「……は? なんで? っていうか土方さんに相談するんですか!?」

「やっぱり仕事の相談がしたくなったんでね」

 突然の飛躍についていけず、思わずぼーっとしてしまった鈴花の脇をすり抜けてつかつかと歩き出してしまう。

 鈴花の呆然とした背中に、先刻とうって変わった上機嫌な声がかかった。


「ありがとう」


「……あ?」


 大石が「ありがとう」!?

 頭を抱え込んでしまった自称恋愛免許皆伝少女には、複雑過ぎる男の複雑過ぎる事情など到底理解出来なかったのだった。









「才谷さん……坂本龍馬の護衛を?」

「ええ、土方さん……それ、俺にやらせてもらえませんか?」

「……まあ、お前の腕なら心配はないかもしれんが。なぜわざわざ自ら志願を?」

「……邪魔だから」

「ん?」

「あんまりちょろちょろされると目障りでね……もともと何かと気に食わなかったし」

「……大石?」

「もちろん見回り組の連中が、ですよ……決まってるでしょう?」

 屯所の一室で、愉悦の予感をかみしめる男の低く暗い笑い声が微かに響いた。



《完》
 

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