ルッスーリアが煎れてくれたアイスグリーンティーを飲みながら、いつもの様にソファーでダルダルしていた時だった。
本日発売のファッション雑誌(勿論、女性向け)をデコデコしたネイルの指で捲りながらルッスーリアは言った。

『最近思うのよ。私達ってXYでしょ?』

って、唐突に。それでいて物思いにふけるみたいに。

『なに?染色体の話?』

『そうそう。それでね、私、Y染色体っておまけだと思うのよ』

ルッスーリアはファッション雑誌から一切目を離さずに言ってのけた。

『………』

これって片手間に話せる話題にしちゃっていの?
結構真面目な話題じゃね?
ジェンダー論とかいう…。
がらにもなくオカマのお前に、気を使っちゃうんだけど。
ってか、どうでもいいけどネイルのスワロフスキーがページを捲る度に太陽に反射して眩しい。
目立って迷惑だから、仕事の時は取ってくれるよな?
それでね…と、指先がキラキラしたルッスーリアは続けた。

『XXが完璧な女とするなら、XYは半分女よね?』

『はぁ…』

あまりの突拍子のなさに、王子ともあろうものが気の抜けた返事をしてしまった。
まさに、口あんぐりってヤツ。

『私、X染色体にスポットを当てて生きていくって決めたの。つまり、今日からオカマじゃなくて女性なの。』

あぁ、そうですか。

『皆が知ったら、きっと世界中に女性が溢れるわ。素敵だと思わない?ベルちゃんのY染色体もいらないわね!』

いやいや、Y染色体いるから!勝手に捨てないでほしい。

『俺、Y染色体に誇り持ってるんだけど…』

ってか…もしかして絶滅?
ルッスーリアの乱暴な『新説:Y染色体はいらない』によって、今、この瞬間、地球から“XYのオス”が存在しなくなりました…。
よって、人類を含めた様々な種も子孫繁栄が望めず絶滅です。
言葉1つで数多の種を絶滅に導くなんて…。
なんて恐ろしいオカマなんだ。

『…で、この話は何処に落ち着くワケ?』

『女性らしくピンクとグリーンのスプリングコートを買うって話よ!』

ルッスーリアは、雑誌をびしっと指差した。

『そこかよ!?』

なんかイラっとした。
俺は感情にまかせてコップを握り潰した。
それは、もうリンゴを潰すゴリラのように。

『ベルちゃん!どうしちゃったの?』

もう、こんなにしちゃって。と、ルッスーリアは慌てて布巾を持ってきた。

『ピンクとグリーンのコート…』

そう、俺が呟くと、

『正確には、ショッキングピンクのコートとペールグリーンのコートよ』

と、ルッスーリアは言った。

『2着かよ!!』

『当たり前じゃない!2着あると色々選べていいじゃない!?』

な、なんてヤツだ。
選択肢が広がるって事でまとめやがった!

『ルッスーリア!明日のおやつはガトーショコラね!!』

最後まで付き合ってやったんだ。
このくらいの我が儘は許されるだろ?



end

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