小説

□Mechanism Heart
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右手でハンドルを操作したまま


オレは左手で内ポケットからタバコを取り出すと、口にくわえた。





「車内は禁煙じゃなかったのか?」



自分の右側からした声に、思わず視線を向けた。



あぁ、


そうだ。



今日は“独り”じゃなかったんだと思い返し
隣りの男から正面へと視線を戻す。





「“つい”だ。ついつい何時もの習慣で、な」

「今じゃ何処へ行っても【禁煙】だ。
お前さんも、これを機会に禁煙したらどうだ?」

「……」



隣りの男
-ジェット-は、車の窓を開けると
赤毛の長い髪を風になびかせた。



オレは、その笑みの理由を知っていたので、敢えて何も答えない。



「思ったより楽に出来たぜ。禁煙」




長い鼻で笑うジェット。



そう。

彼は最近禁煙に成功したらしい。


だから、このオレに『禁煙しろ』と言える。




更に、得意げな笑みを浮かべたまま
ジェットはオレと同じ進行方向へ視線を向けた。





「…しかし…暑いな。ドイツはもう少し涼しいかと思ってたんだがな」

「…今は何処に行っても暑いさ。」


「地球温暖化ってやつか」

「だろうな……」




「そう言えば、日本に行くのも久しぶりだろ?」

「あぁ、半年ぶりだ…」

「…今年の正月は休みがとれなかったんだっけ?」

「……まぁ‥な…」





暫くの間
オレ達は口を開く事はなかった。





何か、聞いてはイケナイ事に触れた様に押し黙ったジェットを見て思った。





…彼は気付いているのかもしれない。



オレが正月、日本へ行けなかった理由が“休みがとれなかった”からではない事を。









「『七夕祭りをやるから』って聞いた時には、吹き出しちまった。ジョーのヤツ、まるで子供-ガキ-みたいで……それに、今まで七夕で集まろうなんて言った事なかったのにな」

「…着いたぜ」





目的地-会社-に着き、オレは何時もの通り車を車庫入れし
事務所へと向かった。

ジェットには外で待ってもらった。




「暑いのに悪いな」
そう言えば
「気にするな、急に来たのはオレの方だ」とやけに気を使った言葉を返すジェットに
オレは又鉛の塊が胃に落ちてゆく感覚を覚える。



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