ぜろ部屋

□河川敷にて
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さん.河川敷にて



24時間いつでもニコニコ営業中。

蛍光灯がしらしらと明るいこの店に、卦体な『お客様』が訪れたのはそろそろ深夜と呼んで差し支えのない時間帯に片足を突っ込んだくらいである。
自動ドアがセンサーで来客を察知してがーっと開く。ヒーターで暖められた空気が扉の開閉と同時に一気に抜け、代わりに冷えた空気が流入した。


「よかった、開いてた」


まだ少し高い声音ですぐに未成年らしいと当たりをつけられる、小さく口の中でそう呟いたお客様は随分と小柄だった。
わざわざ色を抜いたというよりは生来のものらしい新雪めいた髪の色と、桜色の瞳。ここまで走ってきたのかそれとも酔っているのか、このくそ寒い時節に汗ばんだ頬には赤みが差している。
セーター、ワイシャツ、ズボンにジャケット。一応はコート姿のその人物は何か迷うように男性服の辺りを挙動不審気味にきょろきょろ歩き回ると、途中で諦めたのか僅かな嘆息を漏らした。

そして何か決意を固めた顔つきで店員の一人に歩み寄った。


「あの、すみません」

「如何なさいましたか」


こんな時間の客、しかもまだ学生くらいの客に店員たちはそれなりに注目していたので、声をかけられたひとりはすぐに営業用の笑顔とともに反応した。


「……ええと、」


客は視線を躊躇わせてから店員を見上げ、おもむろに両手を肩のくらいに上げる。


「肩がこのくらいで、胸まわりがこれくらいでー、腰がこれくらいの人が着れる男物の服を探してるんですけど……」


言いながら作っていく手の輪に一瞬驚いたが、それなりに勤続している店員は培った経験を駆使して目方で大体採寸すると、かしこまりましたと頷いた。
内心、石膏像かマネキンかというほどに均整の取れたサイズで驚いたのだが、顔には出さない。


「こちらの棚になります」


客はありがとうございますと小さく会釈すると、真剣な表情で棚の品物を見つめ、やがてダークグリーンのセーターを一枚手に取ってレジに向かった。


「これ、お会計お願いします」

「お包み致しますか?」


ふる、と首を横に。


「いえ、そのまま着て行くのでタグだけ取って下さい」


タグを読み込ませてさっさと会計を済ませ、店員は言われるがままにハサミでぱちんとタグを切り取りお待たせいたしました、とそのままセーターを手渡す。


「あ、どうも」

「ありがとうございました」


会釈してセーターを受け取りながら、客はふと気付いたようにもう一度店員の顔を見上げた。
それは、缶バッジやポーチなど小さな買い物を入れる用にとレジ横に積まれた、持ち手のない茶色の紙袋だ。それを指差し、遠慮がちに言う。


「これ、一枚貰ってもいいですか?」

「大丈夫ですよ」


営業スマイル全開の店員にもう一度会釈して一枚紙袋を引き抜くと、客は店内を後にした。店員がなんとなく目で追っていると、自動ドアを出た先で誰かと合流しているのが見て取れた。

最近流行りのRPGゲームにでも登場しそうな服装に身を包んだ男が、申し訳なさそうに目を伏せているところである。どう考えても寒そうな出で立ちなのにその恰好が男には異様に似合っており、コスプレとか厨二病とかより慌てているような様子がなぜか逆に憐れさを誘う。




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