ぜろ部屋

□初戦終了
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はち.初戦終了



東南の夜空を染め上げる紫電のスパークが、壮麗に飾られた戦車を彩っている。
轅(ながえ)に繋がれた逞しくも美しい牡牛の蹄が虚空を蹴り、一直線にこちらへと駆け抜けてくる様はあまりにも幻想的で夢のようだ。


「……戦車(チャリオット)……?」


アイリスフィールの小さな呟きが耳をくすぐり、澪はただ阿呆のようにぽかりと口を開けてその光景に見入るしかなかった。
常識なんて鼻で笑い飛ばし、一足飛びに世界を変えてしまうこれが魔術だというのならば、なるほど確かに脅威だろう。
やがて轟々たる雷鳴が収まり、戦車が戦場の只中で静止する頃には既にその場の空気は残らず『彼』のものだった。


「双方、武器を収めよ。王の御前である!」


雷鳴に勝るとも劣らない、空気を切り裂く大音声は隅々にまで響き渡り、その威容と相まって心地良くすら感じられた。
だが、セイバーとランサーにとってみればよからぬ闖入者が対決に水を差してきただけという事に他ならならず、自然と相手の出方を窺うために躊躇が生まれる。

手綱を取っていた巨漢の御者はなおも朗々と続けた。


「我が名は征服王イスカンダル。此度の聖杯戦争においてはライダーのクラスを得て現界した」


え、ここで全バレしてもいいの?

反射的にそう思った。だって真名は迂闊に出したらいけないってウェイバーが。
つられるように目線はその戦車に乗り合わせているウェイバーの方へと注がれる。

たった今起こった事態を一拍遅れて把握する様子がありありと窺えた。


「何を――考えてやがりますかこの馬ッ鹿はあああああ!!」


この暗闇でもそうと分かるほど青ざめた顔色で、征服王のマントに半ば錯乱状態で掴みかかっているウェイバーを見る限り、彼にとってやっぱり予想外の発言だったらしい。
しかもデコピンで沈められている。可哀想に。


「うぬらとは聖杯を求めて相争う巡り合わせだが……矛を交えるより先に、まずは問うておくことがある」


額を押さえて悶絶しているウェイバーを尻目にライダーは何事もなかったかのように続けた。澪の同情心がすくすく育った。


「うぬら各々が聖杯に何を期するのかは知らぬ。だが今一度考えてみよ。その願望、天地を喰らう大望に比してもなお、まだ重いものであるのかどうか」


この状況下でそういうこと言っちゃうライダーさんまじ破天荒。
多少の交流がある自分だって驚くのだから、初対面のセイバーが不審そうに眦を吊り上げるのは当然と言えばそうだろう。


「貴様――何が言いたい?」

「うむ、噛み砕いて言うとだな」


ライダーはどこか得意げにぶっとい人差し指をぴん、と立てる。あ、なんかイヤな予感。
思わず半泣きのウェイバーと顔を見合わせてしまう。

こういう予想ほどよく当たるのは世の常である。


「ひとつ我が軍門に降り、聖杯を余に譲る気はないか?さすれば余は貴様らを朋友として遇し、世界を征する快悦を共に分かち合う所存でおる」

「……」


やりたい放題とはまさにこのこと。


「この状況で本来のルール総シカト発言……すごいな王様。昔の偉い人ってみんなこんな感じなのか」

「ランサーのマスターよ。その考え方では我らすら毀損されてしまうので即刻正して欲しい」


感心したように独りごちる澪の発言を敏感に拾ったらしいセイバーが、なぜか必死の形相でこちらを説得にかかった。




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