ぜろ部屋
□河川敷にて
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こういう時間帯に、時々そういう客はいる。大抵は酒の席で羽目を外しすぎた人間が主で、いつだったか泥酔状態でブリーフ一丁の男がサイフ片手に服を買いに来たという逸話があるくらいだ。
「……罰ゲームか」
「罰ゲームだな」
深夜担当のシフトに立ってからそれなりに長い二人の店員は迷いもせずに頷きあったのだった。
*****
自分が召喚した征服王――もといライダーの破天荒ぶりと実力の一端に触れて文字通り心身ともにへとへとになったウェイバーは、その場にどっかり胡坐をかいてまた機嫌よく世界地図をめくり始めたライダーを前に、ようやく待ち合わせの約束を思い出してひとり青くなった。
「あッ……」
慌てて時間を確認しても意味がない。大遅刻どころの話じゃない。澪は気を許した相手には律儀だから、きっとあそこで待っているだろう。この寒空の下で、延々と、ウェイバーを。
うわ、どうしよう。混乱と焦燥で頭が一気に沸騰する。でも召喚してからこっちライダーは無茶苦茶だし、警備員からは逃げなきゃならなかったし自分の意見なんて聞く耳持たないし……いや、そんなの言い訳だ。
罪悪感が胸いっぱいに沸き上がり、とにかく橋に行かなくてはとライダーに向き直る。
「おいライダー!」
「ん?」
地図に夢中で生返事のライダーに苛々が募るが、それを気にしている場合じゃない。
「ん?じゃない!これから橋に行くぞ!」
「橋ぃ?橋になんの用があるというのだ」
「いーから!」
これ以上問答するなら腕でもなんでも引っ張ろうと思った矢先に、
「……あ、よかったーいたいた。あそこ」
いつもより段違いに覇気のない感じの声がウェイバーの耳に届いた。声の主を一瞬で把握したウェイバーは慌ててそちらに振り向き、
「澪!待たせて悪か……ッ!?」
その体勢のままガチンと固まった。ライダーもそれに気付いてさも面白そうにほほうと呟いた。
異様な光景がそこにあった。
自分達の後方から聞こえたのは間違いなく澪の声だったし、事実澪はそこにいた。いたのだが……
「橋にいないから、どうしたのかと思ったよ。だいじょぶ?」
「……」
澪は、なんか顔面を紙袋で覆った青年におんぶされていた。
その辺で適当に入手可能そうな紙袋の丁度両目の部分には明らかに急ごしらえな穴が二つ空いており、そこから垣間見える眼差しといいセーター越しでも分かるほど整っている身体つきといい、美青年というのは一目瞭然である。
しかし、西洋の石膏像のように完璧な肢体にも関わらず、得体のしれない袋を被ってうら若き少女をおんぶしている時点でどうしようもなく残念な変態だった。
「……な」
ウェイバーは周囲に反響するのも構わず力の限り叫んだ。
「なに喚んだんだよお前ぇええええ!?」
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