ぜろ部屋
□河川敷にて
3ページ/5ページ
一体何の英霊ならこんなけったいな姿になるのだろうか。バーサーカーか、バーサーカーなのか。
えー、と澪はじゃっかん煩そうに目を細め、不満たらたらに唇をとんがらせた。誰のせいで大声出したと思ってるんだ。
「なにもくそも、召喚しろって言ったのウェイバーじゃんかー」
その調子は普段と何ら変わらなかったが、状況的に変わらなさすぎてウェイバーは重ねて突っ込まずにはおれなかった。
「喚べとは言ったけど!こんな謎の袋魔人呼べなんて言ってないんだよ!」
ウェイバーはビシ!と袋魔人(仮)を指差す。もちろん、彼の目にはサーヴァントを召喚した恩恵のひとつとして他サーヴァントのスキルを見抜く透視が授けられている。目の前にいる袋魔人(仮)にステータスが視える以上、サーヴァントであることは間違いない。が、ステータス抜きにしても異様すぎてどうしようもない。
そんなウェイバーの魂からの訴えを聞いて、澪は僅かに頭を傾けた。
「?ふくろ……」
矢継ぎ早に繰り出されるウェイバーの言葉を、頭をぐらぐらさせながらぼんやり反芻する澪を見ていてようやくウェイバーはあることに気付く。澪の顔色が異様に悪い。もとから白い顔色は今や蒼白なのに目元だけがうっすら赤みがかかっている上、呼吸も浅く、不規則だ。どう見ても疲れ切っている。
そして、そういう時の澪の思考回路は大抵ろくでもない方向にしか働かない。
「あー、ごめん違う違う」
ようやく脳内整理が終わったのか、澪は彼の被っていた袋を掴んでなんのためらいもなくスポンと抜いた。そうすれば、まさに眉目秀麗といった言葉の似合う金眼の美貌が姿を現す。その研ぎ澄まされた玲瓏さには、男であるウェイバーすら何かを覚える力が確かにあった。
予想以上のイケメンにもう一度驚き固まるウェイバーに、澪はあまり考えていない風情で適当に喋る。
「これは僕がかぶってもらったの。さっき、商店街でお姉さんの視線……というか、ナンパがものすごくてさぁ、こわいくらい。一緒にいる僕が視線だけで殺されそうだったから、なら、原因ぽいもの隠してもらえば大丈夫かなって」
顔が出て困ったから、じゃあ顔を隠せば万事解決なんじゃね。そんな短絡思考を本気で実行したことを理解して、ウェイバーの全身から力が抜ける。
ナンパは収まったかもしれないが、頭から袋を被った不審者が若者を背負っているという風聞から逃れられたワケではない。警察を呼ばれなかったのが奇跡である。
「……お前、バカだろ」
脱力とともに呟いたウェイバーの言葉を聞きとがめたのは、そういう意味では被害者なサーヴァントの方だった。端正な柳眉が僅かに上がり、それまで沈黙を保っていた薄い口唇がゆっくりと開く。
「我が主を愚弄するのならば、相応の相手をさせて貰うが」
「愚弄されてんのはある意味そっちだよ!」
非の打ちどころのない、と称しても過言ではない美丈夫に凄まれて若干ビビりも入る。が、付け足すだけは足しておく。
「いくらサーヴァントだからって、言うこと全部従うことないんだからな。そいつ、疲れると判断能力が変な方向にカッ飛ぶから」
なんで人のサーヴァントの心配してるんだろうと思わないでもなかったが、疲労困憊している澪がよく変なことをやらかすことを知っているウェイバーは言わずにおれなかった。
「てか、いい加減説明しろよ。そのサーヴァント、間違いなく澪が呼んだんだよな?」
うん、とひとつ頷き、澪はサーヴァントを窺うように呟いた。
「あの、紹介してもいいですか?」
サーヴァントはウェイバーとこちらに興味津々なライダーにちらと視線を向け、暫しの沈黙ののち、僅かに目を伏せた。
「主のご随意に。それから、私に敬語なぞ無用です」
.