ぜろ部屋

□河川敷にて
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「う、善処しま……する、です」


やっぱり直っていなかったが、いちいち何か言うのも面倒くさい。


「んと、この人はランサーさん」


真名を明かさないのは、一応澪なりの配慮なのだろう。聖杯戦争のセオリーを叩き込んだのはウェイバーだから、その辺りはしっかりしているようだ。


「で、おんぶしてもらっているのは、今この人現界するのに僕の魔力ぜーんぶ使ってるからからっけつなんだ。もうぶっちゃけ喋るのもしんどいもん。あと職質食らったら困るからセーターはそこの服屋で買ったー」


あははとか言いながらもランサーの背に負ぶさったままの表情は変わらず悪い。
召喚には成功したものの、やはり澪の魔力量では身体にかける負担が大きかったということだろう。形の良い肩に半ばもたれるようにだらだら喋る様子に、ウェイバーはふと眉根を寄せた。


「なんだ、結局まだ使ってないのか?」

「んー」


むずがる子供にも似た声を漏らし、少し考えてからまた話し出す。


「だって、そっちも混ぜたらどういう影響出るかわかんないもん。その辺、ウェイバーに聞いてからにしようと思って」

「あ?ああ……そうだな」


ウェイバーは今の状況を忘れ、澪となにがしかの問答をする『いつもの』ように腕を組み、眉間を人差し指で数回叩く。


「ボクだって全部把握してるワケじゃないけど……そのサーヴァントが澪の魔力で現界してるんだったら、お前からの別口供給でも馴染むんじゃないか?」


とは言うものの、確証があるかと問われれば嘘になる。実質、澪のそういう意味での『力』を目の当たりにしたことがないからだ。
ただ魔力と似通ってはいるが別物である、というあやふやな定義があるだけなので不安はついて回る。


「澪の魔力を下地にしてるんだから、そんなヤバイ拒否反応とかが出る可能性は限りなく低い……と、思う」


そんな風にウェイバーが考察を述べていると、


「おい、坊主」


不意に、野太い声が割って入った。

振り向くと、冬眠明けの熊さながらにライダーがのっそりとこちらに歩み寄って来ているところだった。見るからに筋骨隆々とした体躯と威圧感、そして甲冑とマントという装いは彼をサーヴァントだと知らしめている。
澪を背負っているランサーが僅かに緊張したものの、ライダーにそのつもりはないのか飄げたような仕草で世界地図を軽く振ってみせる。


「そこなチビっことランサーは、マスターとサーヴァントではないのか」

「そ、そうだけど」


それがなんだよ、と口の中だけでもごもごと呟く。どうにも未だウェイバーはこのライダーに慣れておらず、小動物のような怯えを隠せない。
ライダーはそんなウェイバーを見てからふむ、と顎に手を当てて今度はずいっと澪に顔を寄せる。


「え、と……?」


それに構えて今にも臨戦態勢に入りそうなランサーなどどこ吹く風で澪はライダーと視線を合わせ、眼鏡を忘れた近眼の人がよくやるそれで目を細めながら首を捻った。


「……今見えてるのが、ステータスだからな」


『視えて』いるものに疑問を抱いているのだと察したウェイバーが呟くと、澪はああと得心入ったように頷く。


「ウェイバーが喚んだ方ですね。応じてくれて、ありがとうございます」

「うむ、そこな坊主の招きに応じ、此度はライダーとして現界した。して、聖杯戦争に参加するお主らに余は問わねばならん」




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