ぜろ部屋
□河川敷にて
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その問いは、聖杯戦争において序幕の合図に等しかった。
「いずれは相争うと見て、相違ないのだな?」
肉食獣めいて獰猛な巨躯を持つライダーが、暗闇でもなおも炯々と閃く双眸で澪を鋭く見据える。王者の威厳すら滲ませて響く糾す声音になぜだろう、澪は唇を綻ばせて心底楽しそうに笑ってみせた。
ふわりと、内側から煌めくような。あこがれの何かに期せずして出会った、そんな喜色がこちらにまで伝わるようだ。
「――ッ」
それを目の当たりにしてしまったウェイバーの背筋にぞ、と怖気が走る。頭の芯が愕然と震える。そんな顔、長い付き合いで見たことがなかった。
それを、なんで、こんなところで。
ウェイバーの混乱を余所に、澪は口を開く。
「僕とウェイバーが最後のふたりになって、ライダーさんがそこにいたら、きっと」
小さな子供がだいじな夢を口にするみたいに、うっとりと。
「僕は、それがとってもとっても楽しみです」
そんな返答になっているのかいないのか微妙な言葉に、ライダーはどこか呆けたように一度ぱちりと瞬きした。
そして――
「――はぁっはははは!」
大口を開けて豪笑した。あまりにも楽しそうに、小気味よいとでも言いたげなせいせいとした呵呵大笑。どこにそんな要素があったのかまるで分からないウェイバーは竦み上がる他ない。
「はは……うむ、成程。お前さんはそういう手合いであったか。ならば問うだけ野暮というものよ」
ひとくさり笑い、ライダーはやおら手を伸ばすと澪の頭をボールくらいの気安さで掴んでわしわしと撫で回す。
「う、あと僕ウェイバーの友達なので、今のところは、その」
ぐわんぐわんと揺さぶられながら不明瞭にもぐもぐ付け足すと、ライダーは軽い調子で頷いた。
「よいよい、お主のような馬鹿がおるならば、心躍るわい」
そのままライダーはランサーの方に顔を向けてにかりと笑う。ガキ大将のような笑みだった。
「この先苦労が絶えぬであろうなぁ、なんせこのマスターだ」
その言にランサーの眦に険が混じる。
「どういう意味だ、ライダーよ。返答如何によっては……」
「そう気色ばむでないわ、堅物よのぉ」
殺気立つランサーを前に、ライダーは腰に手を当てて軽く頭を振った。
「いやなに、チビっこの性質が余の知る者共と同じならば……お主を置いて一番駆けせぬよう見ておいてやれと、まぁそういうことだ」
そう言って、もう一度澪の頭をぽすんと叩いた。ライダーなりに、一応自分のマスターの友人に当たる澪に思うところがあったのだろうか。
ランサーは澪へと僅かに視線をずらし、そのまま僅かに口の端を上げた。
「心遣い、痛み入るとだけ言っておこう。ライダー」
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