ぜろ部屋

□河川敷にて
5ページ/5ページ




その問いは、聖杯戦争において序幕の合図に等しかった。


「いずれは相争うと見て、相違ないのだな?」


肉食獣めいて獰猛な巨躯を持つライダーが、暗闇でもなおも炯々と閃く双眸で澪を鋭く見据える。王者の威厳すら滲ませて響く糾す声音になぜだろう、澪は唇を綻ばせて心底楽しそうに笑ってみせた。

ふわりと、内側から煌めくような。あこがれの何かに期せずして出会った、そんな喜色がこちらにまで伝わるようだ。


「――ッ」


それを目の当たりにしてしまったウェイバーの背筋にぞ、と怖気が走る。頭の芯が愕然と震える。そんな顔、長い付き合いで見たことがなかった。


それを、なんで、こんなところで。


ウェイバーの混乱を余所に、澪は口を開く。


「僕とウェイバーが最後のふたりになって、ライダーさんがそこにいたら、きっと」


小さな子供がだいじな夢を口にするみたいに、うっとりと。


「僕は、それがとってもとっても楽しみです」


そんな返答になっているのかいないのか微妙な言葉に、ライダーはどこか呆けたように一度ぱちりと瞬きした。

そして――


「――はぁっはははは!」


大口を開けて豪笑した。あまりにも楽しそうに、小気味よいとでも言いたげなせいせいとした呵呵大笑。どこにそんな要素があったのかまるで分からないウェイバーは竦み上がる他ない。


「はは……うむ、成程。お前さんはそういう手合いであったか。ならば問うだけ野暮というものよ」


ひとくさり笑い、ライダーはやおら手を伸ばすと澪の頭をボールくらいの気安さで掴んでわしわしと撫で回す。


「う、あと僕ウェイバーの友達なので、今のところは、その」


ぐわんぐわんと揺さぶられながら不明瞭にもぐもぐ付け足すと、ライダーは軽い調子で頷いた。


「よいよい、お主のような馬鹿がおるならば、心躍るわい」


そのままライダーはランサーの方に顔を向けてにかりと笑う。ガキ大将のような笑みだった。


「この先苦労が絶えぬであろうなぁ、なんせこのマスターだ」


その言にランサーの眦に険が混じる。


「どういう意味だ、ライダーよ。返答如何によっては……」

「そう気色ばむでないわ、堅物よのぉ」


殺気立つランサーを前に、ライダーは腰に手を当てて軽く頭を振った。


「いやなに、チビっこの性質が余の知る者共と同じならば……お主を置いて一番駆けせぬよう見ておいてやれと、まぁそういうことだ」


そう言って、もう一度澪の頭をぽすんと叩いた。ライダーなりに、一応自分のマスターの友人に当たる澪に思うところがあったのだろうか。
ランサーは澪へと僅かに視線をずらし、そのまま僅かに口の端を上げた。


「心遣い、痛み入るとだけ言っておこう。ライダー」




.
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ