ぜろ部屋

□おうちです
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半分寝ぼけた頭がシャワーですっきりする頃には、澪は若干これまでの所行をヤバイと思っていた。

仮にも英霊様に向かって何をしているんだろう。当の本人はあまり気にしていないらしいことは救いだが、ちょっと罪悪感。

ランサーいわく、英霊はあまり飲食を必要としないらしい。にも関わらず味覚はあるらしいので面白い話だなぁ、とか澪は思う。
とはいえ腹が減ってはなんとやら。正直そこまで減ってはいないがとにかくカロリーを摂取しないと回復できない。魔力の行使は主に精神をすり減らすが、未熟な澪には体力までその影響が及んでいた。

その辺にあった新聞を鍋敷きにうどんを配置して、澪はちょっと伸びてしまったうどんを食べ始める。熱さが胃の腑に染みる。うん、消化器によさげ。適当にテレビをつけて音量を絞り、チャンネルを回す。


「……」


聖杯戦争のこと。ウェイバーのこと。これからのこと。対処や方法。その他諸々。

考えることが多くてげっそりしてきた。今生において考えることをほぼ放棄していた澪にとって頭脳労働はわりときつい。とはいえほったらかしもいかんので、とりあえず手近な問題から片付けようと澪はランサーに視線を向ける。
さっきからランサーはもの言いたげな様子でこちらを伺っていた。さっきの電話についてだろうというのは澪にも分かる。果たしてそんな差し出がましいことを言っていいのかどうか、そんな空気がまる分かりの視線である。


「ランサーさん」


特に隠すつもりもないので、うどんを食べながらこともなげに切り出す。


「さっきの電話なら、気にしなくてもいいですよ」


あちらさんの意向なんぞ正直知ったこっちゃないので、本気でどうでもいいのだがランサーは「……しかし」と渋り顔。気に病まれてもこちらが困るので、最低限の説明はすべきだろうかと考える。箸を無意味にぱちりと動かした。


「僕のうちも、わりとめんどくさいということで……かな」


というか、最近まで澪もよく知らなかっただけの話である。あと敬語のことを忘れていた。思い出しつつ、ぽつぽつ語る。

元をたどれば、そう。


「僕の親父殿の一夜の過ちが発端、でしょう。いつでもどこでも誰とでも、それはいつの世でも変わらないんじゃないかな」


そんな次世代ユビキタスが原因の出生で、澪はいらぬ火の粉を最初からぶっかけられたということである。迷惑なことに。どれだけ由緒正しい血筋がどーたら言っていても、男と女のアレコレなんて変わらない。間違いなんていつでも起こる。望んでなくても起こるからややこしい。そして、妾腹の子供の扱いだってそう変わらないのである。


「で、仮に僕の魔術回路が十全であれば、まだ言い訳が立ったんだろうけど……」


その言い方にランサーも察したのだろう、表情にそうと分かるほど翳りがよぎる。


「失礼を承知で答えるなら……主のそれは、未熟です。私を喚べたことは、そう、奇跡と言って差し支えないかと」


不敬とも取れるが忌憚のない言い方に、澪は得たりとばかりに笑った。


「そうそ。だから僕は金だけ持たされて時計塔に放り込まれた。せめて魔術回路の備わった旦那でも捕まえてこいってことなんだろうね」


そして、そこで出会ったのがウェイバーなのだからあっちの目論見は軒並みご破算である。
ふと、澪はうどんを食べる手を止めて中空を見上げた。その茫とした様子は、澪をどこか玄妙な様子に見せる。一度箸を置き、指先で机にすーっと線を引く。山のかたち。


「うちの『お役目』は山を守ること。もっと言うと、山に流れる霊脈の管理」


御山を守ることをのみ至上命題に掲げる一族。それが『山津』の本質だ。


「だから、聖杯戦争にも関わりがあった。ちょっとだけど」


と、言っても聖杯戦争のなんとか、というのはウェイバーにご高説賜った時にようやく思い出した程度のレベルだが。


「もし、ここの聖杯に何かがあって霊脈が穢されでもすれば、それは巡り巡ってうちの御山も危険に晒されるから」


万物流転。世界の全ては緩やかに巡っている。それは霊脈すらも例外ではない。
ある一転で霊脈が猛烈に穢れるようなことがあれば、いくら希釈されてもいずれは山津が後生大事にしている山にも影響が及ぶ。それを避けるために、聖杯戦争の折にはあくまで傍観という立場だがうちも少なからず関与している……らしい。だから今回、澪がランサーを召還したことをすぐに察したのだろう。




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