ぜろ部屋
□じゅんびだいじに
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それを横目でじとりと睨み付け、ウェイバーは諦めたようにうなだれた。
「日がな一日中こんな筋肉達磨が部屋に居座るって……しかも本気でなにもしないって何様のつもりだよ」
ウェイバーの愚痴に澪は苦笑しか出ない。連日聞かされれば慣れてくるというものだ。
「何様って、王様なんだろうけどね。尽くされるのもお仕事です」
「それでもサーヴァントなんだぞ、アイツ。あー、そういう意味ではお前のとこのサーヴァントが……って、そういえばランサーはどうしたんだ?」
いつもならば澪の傍で霊体化しているランサーの気配が今日はしなかったのだ。実体化するとウェイバーの部屋がむくつけき男の園になってしまうので、まだ説得のきくランサーには霊体化してもらうのが常だった。
ただ、共闘関係であることを再三念押ししているにも関わらず、常に発される微妙な緊張感がないのはウェイバーにとっては助かることではあったが。
「ああ、えーと……」
澪は言われたくないことを言われてしまった、という顔で差し出されたクッションを受け取って苦笑した。
「ランサーさんならあんまり心配するから言いくるめ、じゃない、哨戒に行ってもらった」
「言いくるめたって、お前」
あんまりな物言いである。しかし澪は何が不満なのか、唇を尖らせながらそっぽを向いた。
「だってランサーさん心配しすぎだよ。なんかあっても平気だって言ってるのにどこでもついてくるし」
「サーヴァントとしていい心がけだろ。それは」
「程度の問題、かな。というか、ぶっちゃけひとりの方が楽な時もあったりなかったり」
ウェイバーと仲良くなるまで単独行動が多かった澪は、誰かと常に一緒という状態だと無闇に気を張ってしまうのでめんどくさいらしい。気持ちは分からないではないが、ウェイバー的にはランサーに少々の同情を抱いてしまう。
「……あのさ、気のせいだったら悪いけど、お前ランサーに当たりキツくないか」
そして、誰よりも長い付き合いだからこそ、澪の微妙な表情の変化にも気付いた。
柳に風、暖簾に腕押し。時計塔において、誰に何を言われてもそんな対応しかしていなかった彼女をウェイバーは知っている。だからこそ、常よりほんの少し異なるランサーの対応に関しての違和感が拭えなかった。
表立ってはいないが、どこか壁というか、隔たりがあるような気がするのだ。
「ああ、そりゃね」
澪は否定もせずに困ったようにぽつりと。
「だって、たぶんランサーさんと僕相性悪いもん。同族嫌悪っての?」
「同族……嫌悪ぉ?」
何をどうしたら澪とあのランサーに似た部分があるのか、ウェイバーにはさっぱり分からなかった。ランサーはウェイバーの見る限り澪のことを少なからず気遣っているし、従っている。問題などどこにあるのだろうか。
「澪、ちょっと贅沢すぎないか?」
今現在、自分のサーヴァントに頭を悩ませている自分からしてみれば、それはひどく贅沢な悩みにしか思えなかった。
「……性格的なそりってさ、あるんだよ」
澪は否定もせずにそれだけ言って、話を切り上げた。
「それに地図だけじゃ限界もあるだろうし、地理把握してもらわないとっていうのもあるから」
「……ふぅん、ま、なんでもいいけど」
実のところ、ランサーは澪がウェイバー宅を訪れることに未だ難色を示している。しかし、何か起きても自分でなんとかできるからという澪の言と、もしもの場合は令呪で招喚するという条件で渋々哨戒に行ったのだった。
それを過保護と取るか、サーヴァントとして当然の警戒と取るかは意見が分かれるところだろう。ちなみに澪は前者である。ランサーさんまじ過保護。
「ともかく、ライダーにその勤勉さの100分の一でも分けて欲しいよ。まったく」
気を取り直してそうぼやきながら、ウェイバーは当面の調査として行っている遠坂邸と間桐邸に放った使い魔で様子を探るべく準備を始めた。澪も澪でウェイバーを手伝えることは特にないと判断すると、バッグに入れてきた小道具を取り出して何やら作業を開始する。ライダーはテレビの前でごろりと横になり、ウェイバー用の飲み物を勝手に飲みながらビデオを見始めた。
ここ数日の三人の日常は、おおむねこんな感じである。
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