ぜろ部屋

□初戦終了
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「王と称される輩が全てあのような発言をするわけではないとご理解頂きたい。むしろあちらが特殊事例です」


淡々と紡がれるわりには早口かつ熱が籠もっており、あまりの剣幕にじゃっかんびびる。


「えっ……あ、はい。なんかすいません」


正直当惑しつつもぺこぺこ頭を下げると、「敵に説教されて謝るなよ……」というウェイバーのお小言が聞こえた。だって、ねぇ?


「先に名乗った心意気には、まぁ感服せんでもないが……その提案は承諾しかねる」


若干緩みそうになった空気を元に戻すように、苦笑混じりに首を振ったのはランサーだった。しかもその瞳だけは刃の如く威嚇的で、毛ほども笑っていない。
美形は怒ると怖いって言うけど、ランサーさんもおっかないなぁ、と当事者のくせにどこまでも他人事のような感想を持つ澪である。


「俺が聖杯を捧げるのは、今生にて誓いを交わした新たなる君主ただ一人だけ。断じて貴様ではないぞ、ライダー」


曲がりなりにも自分たちとウェイバーは不闘の約束をしているが、それはサーヴァントが自分たち以外にいるという前提があってこそなので、聖杯云々はまた別問題である。


「……そもそも、そんな戯言を述べ立てるために、貴様は私とランサーの勝負を邪魔立てしたというのか?」


面通しを済ませているランサーまで柳眉を逆立てたこの状況、こういった茶々を嫌いそうなセイバーの反応はいや増している。


「戯れ事が過ぎたな征服王。騎士として許し難い侮辱だ」


二人に真っ向から否定されたライダーは、しかめっ面で唸りながら拳でこめかみをグリグリ揉んでからやがて閃いた!という顔になった。嫌な予感その2。


「待遇は応相談だが?」

「「くどい!」」


びっくりするほど即答である。素人目にも分かるほど交渉の余地ゼロだった。

特にライダーを睨み据えるセイバーの剣幕には、ランサーとはまた異なる重みが感じられる。


「重ねて言うなら――私もまた一人の王としてブリテン国を預かる身だ。いかな大王といえども、臣下に降るわけにはいかぬ」


成る程、この人もどこかの王だったからさっきの発言だったのか、と妙に納得する。同列に扱われるなど言語道断、といったところか。


「ほう?ブリテンの王とな?」


セイバーの宣言によほど興味を惹かれたのか、ライダーの眉が楽しげに跳ね上がった。


「こりゃ驚いた。名にしおう騎士王が、こんな小娘だったとは」

「――その小娘の一太刀を浴びてみるか?征服王」


ちき、と小さな鍔鳴りと共にセイバーの闘気が膨れ上がる。あとひとつ失言を零せばそのまま乱戦にもつれ込みそうな勢いだ。
それを感じ取ったのか、ライダーはさも惜しいと言わんばかりに深いため息をひとつ。


「こりゃー交渉決裂かぁ。勿体ないなぁ。残念だなぁ」


彼にとっては残念無念程度のことだろうが、ウェイバーにとっちゃそうはいかないワケで。


「ら、い、だぁぁぁぁ……」


地を這うような声を上げながら、ウェイバーは変な妖怪じみた動きでライダーに再び掴みかかった。マントに皺が寄りそうだ。


「ど〜すんだよぉ。征服とか何とか言いながら、結局総スカンじゃないかよぉ……お前、本気でセイバーとランサーを手下にできると思ってたのか?」

「いや、まぁ、ものは試し≠ニ言うではないか」

「ものは試し≠ナ真名バラしたンかい!?」


カラカラと剛胆に笑うライダーの胸めがけて貧弱な拳でぽかぽかするウェイバーである。




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