ぜろ部屋
□初戦終了
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体格差のせいでなんというか、もう、どっかのコントじみた有様と化していて哀れさを誘う。或いは獅子に健気にも噛みつこうとする小動物。
個人的には、ああいう人柄には大層魅力を感じるが、御する身としてはたまったものではないだろう。つくづく今後のウェイバーが心配である。主に胃袋とか。
「……ふーむ、ではマスターを口説くという手もありか?」
そんな事を考えていると、ライダーはいつの間にかこちらを向いていた。
「まぁ、セイバー側には通じなかろうが……なぁおいランサーのマスターよ」
「!」
慌ててこちらもライダーに向き直り、ウェイバーに目配せを送る。
ウェイバーは首がもげそうな勢いで横に振った。打ち合わせていたわけではなさそうだ。
ライダーはにぃと笑い、口を開く。
「ランサーはお前さんに聖杯を奉じるのであろう?ならば、おぬしがその聖杯を余に譲り渡すつもりはないか?」
「ちょ、おい!」
「ッ!ライダー!」
さすがに看過できぬと見たか、ランサーが鋭く声を上げ、それから迷うようにおろりと視線をこちらに寄越してきた。
どことなく不安げで、寄る辺ない子供のような表情。
こと聖杯に関してはつくづく信用がない。100パー自分のせいだけど。
「……」
ライダーの言葉は先日と似たような問いだったけれど、この場で問うてくる意図がちっとも読めなかった。かと言って、その場しのぎの言葉で納得してくれるほどライダーの言も視線も優しくない。
糾すわけではないだろうけれど、ひたすらに強かった。
澪はライダーの真意を探り出すようにしばらく見つめ、小さく息を吐いてさもびっくりした、という風情で口を開いた。
「驚いた。将を射んとせば将を討っちゃうんですか?ライダーさん」
「応。戦略とはなべてそういうものよ」
悪びれもしないライダーがあまりにも『らしい』ので、澪はぷすん、と気の抜けたような笑みを漏らした。
動向を見つめているランサーは、対照的にはらはらしていた。彼は澪が聖杯に賭ける望みこそ未だ知らないものの、聖杯に格別の執着を傾けていないことはよく知っている。
逆に、この状況下でどことなく楽しそうな澪の様子に胡乱な目つきになったのはセイバー組だ。何も知らない彼女たちにとって、もしこの場で彼女が是と頷き共闘関係が成立してしまえば、厄介なことになるのは目に見えている。
「……」
それぞれがそれぞれの思惑を胸に小さなランサーの主を注視する中――澪は指先で×印を作って悪戯な子供のように唇をとんがらせた。
そんな申し出はもちろん。
「ぶぶーッ!です」
ぶっちん、と緊張の糸が切れる音が聞こえそうだった。どこのクイズ番組だ。
一気に弛緩してしまった雰囲気のまま、澪はあくまでも飄々とした態度を崩すことなくついでとばかりに理由を継ぎ足す。
「だって、それじゃあ『つまんない』じゃないですか」
「つまっ……!?」
けろりと紡がれる理由に、アイリスフィールが引きつった声を上げた。
ウェイバーさえこの返答には目を剥く。身命を賭して挑む戦争において、よもやそのように不穏当極まりない台詞が飛び出してくるとは夢にも思わなかった。この感覚は、冬木で澪と再会してから幾度となく感じてきたものだと、頭の片隅で考える。
これまでの澪と、何か、どこかが、違うような気がして仕方がない。不安は募るばかりで解消される気配もなかった。
その雰囲気の変化を察したのか、澪は慌てて取り繕うように両手を上げた。
「あ、勘違いしないで下さい。僕にだって願いはある。できることなら叶えたい」
言葉を区切り、そっと胸に手を当てて、心からの本音を口にする。
確かに嘘じゃない。願いはある。それもとびきりの。
きっと、この願いが叶えられるだけの力があるものは現段階で自分の知る限り聖杯だけだろう。
それくらい突拍子もなければ現実性もない願いだから。
「でもね」
けれど――それでは足らぬと、自分の奥底が唸りを上げるのだ。
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