ぜろ部屋

□初戦終了
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ライダーの大望に比してなお、望むものが確かにある。


それは澪という人間が前世より持ち越してしまった、厄介かつ抗え難い、飢えるように貪欲な本能そのものだ。

そう、本当に願っている。聖杯に賭ける願いとは違う、もっと近くて、手が届く邪な感情。


「そんなことより――僕はあなたと踊りたい」


それが今の何よりの望みだ。

己の全てを賭して、全身全霊で。

この倦んだ日々に天啓のように現れてしまった、命を賭け金に挑める最悪にして最高の大一番。

恭順なぞ冗談ではない。へそが茶を沸かす。


「その楽しみをすら、僕から『奪う』のですか?征服王」


それは、前世という闘争と乱世の坩堝を生き抜いてきたが故の病気とも呼べる弊害に他ならない。



――言うなれば、澪はそういう類のクズで、あらゆる意味での社会不適合者なのだ。



これまで好むと好まざるとに関わらず培われてしまった論理が通用しないこの世界において、澪の口にした言葉は突拍子もなければ意図すら読めない世迷言だろう。

だから、一連の流れをスコープ越しに見つめていた衛宮切嗣が、理解の及ばない生き物を見る目つきで呟くのも無理はなかった。


『……馬鹿なのか大物なのかは判じかねるけど、あの子供は聖杯戦争をなんだと思ってるんだ?』


主たる少女の桜色の瞳の奥、熾火のように燻り猛る色を見付けてしまったランサーは、口にする言葉に窮した。その色には、嫌というほど覚えがある。

良い意味でも、悪い意味でも。

そんな中、再び大口開けて豪笑したのはこののち、衛宮切嗣評するところ『馬鹿』の片割れである。


「――ッははは!いよぉし、それでこそよ!まっこと嬢は気持ちの良い馬鹿ったれだ!」


心底小気味が良いとばかりに笑い声を響かせ、ライダーは満足したようにひとつ頷いた。


「さて、と。嬢やとの語らいは楽しいがここらで一旦お開きとしよう」


仕切り直しのようにパァン!と腰に手を当てて、ライダーは再び王者の貫禄で周囲を睥睨する。


「セイバー、それにランサーよ。うぬらの真っ向切っての競い合い、まことに見事であった。あれほどに清澄な剣戟を響かせては、惹かれて出てきた英霊が、よもや余ひとりということはあるまいて」


そして、ライダーは誰かを挑発するように高々と拳を振り上げた。


「闇夜に紛れて見物するだけで満足できるのか?んん?」


尋ねているというよりは、呆れかえるような物言いだった。やれやれとばかりに肩をすくめ、双眸だけは爛々と。


「冬木に集った居並ぶ英雄豪傑どもよ。このセイバーとランサーが見せつけた気概に何も感じたりせんと申すか?情けないことよのう、コソコソと覗き見に徹するだけなら英霊でなくとも務まるわい」


ライダーは、辺り一面に響き渡れとばかりに胴間声を張り上げた。


「聖杯に招かれし英霊は、今!ここに集うがいい。なおも顔見せを怖じるような臆病者は、征服王イスカンダルの侮蔑を免れぬものと知れ!」


挑発と呼ぶにはあまりにも堂々とした宣告の直後、まだ余韻すら残る場へと『それ』は現れた。

印象は、ひたすらに黄金色。

ライダーの挑発に乗って現れたのだから、間違いなく第四のサーヴァントだろう。
空気に含まれる微細な粒子の隅々までを絢爛豪華に塗り替えるような、あまりにも華やかな存在感だった。

街灯のポールの頂上に屹立する黄金の甲冑を身に纏った英霊は、端麗な造作をした青年のように澪には見えた。


「我を差し置いて、王≠称する不埒者が、一夜のうちに二匹も湧くとはな」




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