ぜろ部屋

□作戦会議ごーごー
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「ぜったい、聖杯を手に入れて……きみを、あおいさんのもとにかえして、あげるから……」


そして、歪み強ばってしまった頬を伝う、ひとすじの――


「なかないで、さくらちゃん」


それきり彼の言葉は途切れ、再び眠りに落ちた。


「……」


さっきとは別種の沈黙が満ちる。それまで存在していたランサーの懐疑の色はすっかり鳴りをひそめ、ただ憂いを帯びた同情と僅かの迷いだけがあった。騎士魂がバシバシ刺激されたのだろう、気持ちは分かる。
今の寝言から察することのできる事態は、彼が聖杯を求めるに至ったあまりにもあんまりな彼の事情である。

もし、この青年が聖杯戦争に身を投じた理由が人質だのなんだの(しかも娘なのか妹なのか)だとしたら、どれだけこの人はお人好しなのだ。優しすぎるだろ。
それをこんな序盤で弱ってるんなら好都合だぜひゃっほう!とさっくりやれるほど澪はまだ人間捨ててない。

というか、もし前述した予想が理由だとすれば、ここでこの青年を殺しても意味がないことになる。なんせ強要したか仄めかしたかは知らないが、下手人がいることになるのだ。

さて、諸々の予測を加味した上で考えると、


「なんか、もう、あれだ。敵か味方かは置いといて、ちょっと話聞いてみるしかないよねこれは」

「澪殿!?」


ペン先を指先でいじりながら、だらけた様子でいきなりそんなことをのたまった主にランサーは驚愕した。そんなえらいあっさり。
澪はペン先を癇性な子供のようにがじがじとくわえながら更にぼやく。


「だって、こんな半死人に問答無用でとどめ刺しても罪悪感はんぱないし、それはランサーさんも同じと見た」

「う」


図星である。

騎士道を胸に抱く者として、なんぼ敵サーヴァントのマスターとはいえこれでは倒すことに躊躇いはなくとも些かの感情がある。
その辺の機微を知ってか知らずか、澪はペンをくるくる回しながらぼやいた。


「僕もさ、基本的に自分から乗ってきたならともかく『やらされて』る人斬るのイヤだしさ。なら、ある程度話し合いしてみて、その上でも戦いたいっていうのなら全力でお相手するってことで、どう?」

「どう、と申されましても……」


あまりにフランクな物言いだが、それは要するに男に手心を加えず無事なまま話し合いをしてみよう、ということだ。敵を増やすことになりかねない蛮行と言える。
けれど、澪の口にしている言葉はランサーにとっても心地の悪いものではなかった。見通しは悪いし見切り発車だが、彼女の思考は刃を手に持つ輩にとっては心惹かれるのだ。

結局はこう言うしかない。


「……主の意向に俺が口を挟むつもりはございません」


ランサーの言葉に得たりとばかり、澪はにぃと唇を吊り上げた。


「ありがとう。じゃーまずはどうしようか。叩き起こすのは悪いし、その前にまともに話聞ける状態なのかなこの、えーと、間桐雁夜さん」


着替えさせる際にランサーが見付けてきた財布から保険証を指先でつまみ、確認してから呟いた。
病院を固辞していたのに保険証は持っている、というのがうっかりなのか常識的なのかは計りかねるところだ。


「回復する端から虫に吸われてたら話し合いの前にバーサーカー出てきて話し合い(物理)になったらたまんないし……」


目下の課題がそれだった。




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