ぜろ部屋

□あさなんです
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話をするにしても、それは気持ちの遠近で内容はがらりと変わるものだ。

同じものを飲み食いするのは手っ取り早いやり方である。無論、それが効く人種と効かない人種があるけれど、どうやら間桐雁夜に関しては後者だったらしいと澪は粥をすすりながら考えた。
自分はといえば、逆にあまり食べることに執着がないせいか前者に属しており、相手との気持ちが縮んだり遠のいたりはしない。

ついでに言うと、この間桐雁夜という男性はどうやら魔術師という人種そのものを毛嫌いしているフシがあり、それを否定したのも一因のようだ。


「そう、だったのか……ごめん。面倒をかけてしまって」


それが証拠にお互いに簡単な自己紹介を済ませ、澪が自分の招喚に至った理由(友達のためを強調)と拾った経緯をかいつまんで説明すると、雁夜は素直に謝意を示してくれた。
そしてほんの断片だけれど、自分が聖杯戦争に参加した理由についても。


「いえ、それは成り行きなのでいいんですよ」


食事の膳は粗方食べ尽くし、今は食後のお茶をランサーが注いでいる。もうおさんどんが板に付いてきてしまっているのが申し訳ない。


「僕も、間桐さんには謝らないといけませんし」


さて、ここからが正念場である。


「え?」


雁夜が顔を上げ、こちらを見つめる。不思議そうな顔だった。


「ごめんなさい、間桐さん」


内心腕まくりするような気持ちで澪は雁夜をはったと見据え、自分が彼に行った『乱行』を開陳した。


「僕はあなたの体内を苗床にしている蟲を、悉く除去しました」

「――ッ!!」


湯飲みを取り落とし、雁夜は声もないほど愕然とした。けれど澪は頓着することなく重ねて告げる。


「蟲に滞留していた魔力諸々は全て内臓器官の補填に当て、間桐さんの体調が微量ながら賦活しているのはそのためです」

「な、んで」


消え入りそうな声音は、聞いているだけで痛々しい。無理もない。彼は今、自分の武器全てを取り上げられたと告白されたのだ。
呆然と澪の言葉を聞いていた雁夜は、何かに気付いたように両目を見開いた。


「バーサーカー!俺のバーサーカーは!?」

「それは……出せるとは思います、けど」


そう呟いた途端、雁夜は残った魔力回路を励起させたらしく傍らに黒い何かが蟠る。
咄嗟にランサーが視線を走らせ、臨戦態勢に……ならなかった。


「え?」


空気が抜けるような呟きを漏らしたのは、雁夜自身である。
続けて澪も『バーサーカー』を視認して瞠目し、じゃっかんの申し訳なさに眉を下げた。これはなんというか。


「間桐さんのぶちぶちな魔力回路を省エネでやりくりしようと思ったら、一番手っ取り早いのは容量を減らすってことかな。これは」

「……このようなサーヴァントの在り方は、俺も始めて見ました」


雁夜の零したお茶を雑巾で拭きながら、ランサーも感想を述べる。困惑が見える言い方だった。無論、最も混乱しているのは雁夜本人だろうけど。

全員の視線の先、間桐雁夜のサーヴァントは驚くべき変貌を遂げていた。




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