ぜろ部屋

□Chocolate-Box (Afternoon tea)
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「見たとこ、うちの生徒っぽくないけど誰かに用事?」


言われてみればさっきまで自室にいたのだから、服装だって魔術なんか欠片も関係ないものだ。
まぁ、一応、予定ではウェイバーとおでかけするつもりだったからそれなりではあるけど。思い出すとまた苛々しそうだったので思考を打ち切った。


「あ、えっと、今休学しててそれで……エルメロイ先生に、用事が」


ケイネス先生、だと名前呼びになってしまう。不敬と思われると困るのでこちらで通すことにした。
よく考えればアーチボルト先生と言った方がよかったかもしれない。混乱が残っているらしい。


「ああ、教授?」


けれど、相手にはちゃんと伝わったみたいで安心する。


「なら案内してあげるよ!俺も教授の弟子だしさ」


弟子、というわりに見覚えがないが、そもそもケイネスと澪に大した親交などないのでそれも当然かと思い直す。
案内を買って出てくれたということの方が重要だ。


「え、いいんですか?ありがとう!」

「どういたしまして〜、こっちこっち」


軽い感じで笑って頷き、澪を先導しながら青年はフラット・エスカルドスと名乗った。


「おっと、でも教授出張から帰ってきたばっかりだから、たぶん超機嫌悪いよ。気を付けてね?」

「あの先生が機嫌悪いの、いつもだと思うんですけど」


廊下で歩いてる時もウェイバーに質問されてる時も、大体彼は仏頂面だったことを思い出す。
上機嫌な時なんて、せいぜい彼の婚約者とのデートを控えている時くらいだろうか。澪の言葉にフラットは小さく噴き出した。


「あっはは!だよね〜、でもあれで『女生徒が選ぶ時計塔で一番抱かれたい男』なんて言われてるんだから、女の子ってわっかんないなぁ」

「ええっ!?そんなのあるんですか!?」


頭の後ろで両手を組んで飄々とするフラットの台詞に仰天した。だって先生婚約者一筋なのに。


「あれ、知らない?教授の二つ名って結構あってさ、『プロフェッサー・カリスマ』とか『グレートビッグベン☆ロンドンスター』とか」

「し、知らない……」


ダサいのか恰好良いのかいまいち計りかねる二つ名を列挙されて、正直反応に困った。婉曲ないじめじゃないのか。
カリスマ、はまぁ分からないでもないけど、ロンドンスターはどうなんだろう。


「まぁ、本人的には気に入ってないらしいけど、と。ここだよ」


そりゃそうだろうな、と妙な納得を覚えている間にフラットは無造作にドアをゴンゴンとノックした。


「教授〜、フラット・エスカルドス入りまーす」


そして相手の応えも待たぬままドアを開けてしまった。えー。
わりと厳格なタチのケイネス先生絶対怒るよなこれ、とおそるおそる覗き込もうとすると――


「ファック!応えがあるまでドアを開けるなと何度言ったら覚える!」


全く、ぜんぜん、聞き覚えのない怒声が響いた。
期待外れどころの騒ぎじゃない状況にびきりと固まってしまう。聞いたこともない声なんですけど?




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