しょうせつ
□見よ、主は冥い土の中に
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声がした。
「ここは寒いよ、とても寒くてたまらないんだ」
土色の景色が遠く、眼前に広がっていく。
その世界の真ん中にファントムはいた。
「とても寒い、寒いよ。それに…とても痛い」
ファントムの左腕はぽっきりと折れていた。
その他にも右手の5本の指は骨だけになっていて、ふくよかだった太腿からふくらはぎにかけては直視出来ないくらいに腐りきっていた。
ファントムは寒い寒いと喘ぎながら、冷たい土の上に這い蹲り、転がり落ちた左目を拾い上げた。
「どうして僕はこんなところに独りきりなの?淋しい…寒いよ…」
砂にまみれたそれを、ファントムは爛れた目の窪みにねじ込み、私を視る。
悲しみと叫びを浮かべた瞳に、憎悪の色が滲む。
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