□覚醒と後悔、それから君の手
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はぁ、はぁっ。
熱い吐息が辺りを満たしていた。
自分が胸に掻き抱く人間があまりにも愛しくて、仕方無い。幾度か吐き出した欲はそれでも尚枯れる事を知らず、疲れた体とは裏腹に心が求める。
自らが組み敷いた人間からも絶える事無く熱い息と甘い嬌声が漏れ続け、それすらも逃すまいと口付けた。文字通り唇を吸い合い、ざらつく舌を押し付け合う。
粘膜の絡む音が脳裏に記憶され、快感に身が震えた。
自分が上にいる優越感だろうか。酷く気分が良い。
支配欲、独占欲、性欲。
全てが満たされる今が、幸福で堪らない。
滴る汗が落ちる度に興奮を感じ、愛しい人間の体を揺さ振った。絶頂を迎えた瞬間、なめらかな白い肌に刻印を刻み、満足気に笑む自分がそこにいた。







「ん、‥‥?」

下半身の不快感に目が覚めて、恐る恐る覗けば、そこにはぐっしょりと濡れた下着。

「う、嘘、でしょう‥」

自分だって男だ。夢精くらいした事がある。しかし今は自慰を覚えたお陰で、欲求不満は溜まっていないと思っていたのに。自分の性欲の強さに溜め息が零れた。
近くにあったティッシュで証拠隠滅を行いながら、ふと思う。
自分は誰を抱いていた?
覚えていないのだ。
確かに自分はその人間を愛していた。
その事は強く感じるのに、肝心の顔だけはどうしても思い出せない。

「確か‥口元に黶が‥」

♪〜♪〜♪〜

顔の特徴を思い出し掛けた時、不意に携帯が鳴った。サブ画面の表示を見れば、仁王雅治。






戦慄した。
フラッシュバックと言っても過言ではないと思う。
彼の名を見た瞬間、夢の情景がぶわりと脳内に広がったのだ。
脱ぎ捨てられた制服、乱れたベッド、軋むスプリングに谺する彼の声。
私は、仁王君を抱いた。
その事実に愕然としながらも、彼からの着信を無視する事も出来ず。

「はい、」
『おはよーさん』

時計を見れば、六時。
もう朝なのか。頭が回らない。彼の声を聞き、より一層罪悪感が募った。泣きたかった。いっその事、死んでしまいたかった。

「仁王君、すみません。私は貴方を、仁王君‥本当に申し訳ない。仁王君、私はもう、仁王君‥」
『柳生‥?‥うん。大丈夫じゃ、大丈夫じゃけ。お前さんが何しても俺が許す。俺が守る。な、大丈夫』






仁王君は何も聞かず、ただひたすらに大丈夫と繰り返した。






end

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