□13歳の夏
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期末テスト三日前、先日担任から今度赤点を取ったら部活には行かせん!なんて素敵な言葉を頂いたから、それは困ったとばかりに柳生先輩を呼び出した。
3年の先輩なら誰でも良かったが(ガムと詐欺師除く)、可能ならば紳士に教えて貰いたいのが人の性と言うものだろう。
そんなこんなで俺は今、放課後の教室で柳生先輩の手解きを受けている。

「せんぱーい、ここ分かんねッス」
「ここですか?」

一番苦手な英語からやっつけようと始めたは良いが、さっぱり分からない。開始5分も経たない内に柳生先輩の助言を求める事になった。その時プリントに印刷された「is」を指差す柳生先輩の右手に違和感を感じ、ふと目を止める。

「何で中指と人差し指だけ爪短いんすか?」

細く長い先輩の指先には、美しい縦長の爪が張り付いている。それが2本だけ欠落しているのだ。変に感じない方がおかしい。

「あぁいえ、お気になさらず」
「気になるっすよー!」

そう言いながら身を乗り出せば、柳生先輩はやれやれと首を振り、俺に苦笑を寄越した。「聞いて後悔しても知りませんからね」その言葉に俺の中の好奇心がむくむくと膨らむ。

「後悔しないっす!教えて下さいよ!」
「いえね、その、セックスの時に、爪が邪魔なんですよ」
「あー…、突っ込むから?」
「下品ですよ」

苦笑混じりに返されるが、実際間違った事は言ってない。大体男同士でそういうことやってる時点で下品なんて通り越してるんじゃないのか(俺は先輩達の関係を知ってる)。

「でも、勿体ね。先輩、爪綺麗じゃん」

今だ机の上に置かれた手を取り眺めると、より一層それの芸術性が高まった。自らの手と重ね合わせれば尚更だ。細い癖に長い指は、俺の手なんて本当に何なんだと思わせる力を持っていた。まぁ、この綺麗な指がどこぞの穴を行き来してんのかと思うと、色々ぶち壊しなのだが。

「ありがとうございます。しかし、爪なんて幾らでも伸びますから」

確かに自分の手は嫌いではありませし、形は良い方かな、なんて思ったりもしますが、仁王君が傷付く方が私には堪えられない。それに、このような不恰好な爪でも、仁王君は好きと言ってくれるのです。ですから、何も勿体無いことなんてありませんよ。
















そう言って笑う柳生先輩は、本当に幸せそうで、何だか俺が泣けてきた。
ヤロー同士の恋愛なんざ、エグいだけかと思っていたが、不覚にも、切原赤也、13歳の夏。
本物の愛をヤロー同士の恋愛から学んだ。








end

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