□切な連鎖
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全国決勝後。










準優勝のトロフィーを受け取った俺達は、揃って帰路に着いた。赤也、丸井、ジャッカルは大泣きしていて、そりゃあ俺だって悔しいが、試合後の幸村は満足そうな顔をしていたから不思議と泣く程の悔しさは込み上げない。

「仁王くん、この後、お暇ですか」
「……お暇じゃないけど付き合っちゃります」

駅に着いて、電車が丁度滑り込んできたから乗り込もうとすると、柳生から手を引かれ強制的に下ろされた。俺の都合など知った事じゃないんだろう。まぁ何も用事はないが。

「では皆さん、お疲れ様でした」
「お疲れさん」

違う電車へと乗る為に異なるホームへ向かう友人へ手を振る。清々しい笑顔の幸村と、今更ながら関東大会決勝を思い出したのか苦虫を噛み潰した様な真田がいて、やっぱり悔しさよりも充足感が溢れた。

「行きましょうか」
「ん、」

柳生が乗る電車がホーム内に入ってくると、柳生は俺の手を離さぬままに乗車する。平日の夕刻、一番人の多い時間だ。

「やぎゅう、手」
「良いですから」

俺は普段から周りの目は気にしないが、柳生はそうじゃない。彼曰く世間体が悪くなればいずれこの関係が崩れてしまうらしい。

「今日は、良いですから」
「そ?」

繋いだ手はそのまま、比較的空いている車両の隅の席に腰を落ち着けた。肩をぴったりくっつけて柳生の方へ体を預けると、普段ならお叱りを受ける筈が今日は柳生からも傾いでくる。
おかしい。まぁ原因なんて分かってるけど。

「仁王くん、」
「はーい」

がたんごとん、静かに電車が動きだす。流れる景色よりも夕日の所為でガラスに写る俺達の方がはっきりしていて、何だか不思議な気持ちになった。何が本当で、何が偽物か分からない。

「私は貴方にお疲れ様、とは言いません」
「知っとーよ。他ん奴にはゆーたんに、俺は言われちょらんもん」

そんなの、試合終わった直後から気付いてた。

「今日、不二くんと試合をしたのは、手塚くんと白石くんです。貴方は、試合をしていないし、負けていない」

気休めにしかならない筈の言葉は、心に染み込んで、漸く涙が零れた。それを隠す為に柳生の胸へ顔を埋めると、柳生は微笑んで、静かに頭を撫でてくれた。ごめん、とは言えなかった。

「ありがとさん、」












この試合は切なすぎた。
負けた仁王も、出られなかった柳生も。




end

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