□屈折し飽きた、され飽きた
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柳生のどこが好きなのか、って。そりゃあ真面目なトコロに決まってる。俺みたいな破天荒でチャラついた輩に口煩く注意して、自分の利益など何もないのに他人の世話を焼く。俺のやることなすことに全部びっくりして、怒って。そんな姿がとても可愛らしいと思った。「冗談が過ぎますよ」その癖俺があんまりやりすぎたことをしたら(飲酒喫煙万引きパチンコ出会い系エトセトラ、柳生の気を引くためだけど)、躊躇いなく俺のことをぶん殴ってそう言う。ギャップ萌え、なんて甘い言葉じゃ片付かないくらい。普段と掛け離れた柳生を目の当たりにして、その背徳感に俺は熱い吐息を吐き出した。純粋で無垢で真っ白な柳生に、マトリョーシカみたいな自分自身を披露するのが大好きだった俺は、いつの間にかその奥にある柳生の秘密の顔を見たいだけになっていた。柳生のあの柔和でお日様の匂いがしそうな程温かい表情が、ああ、強張って嫌悪を示す。それだけで、何だ、これ。


とても、気持ちが良い。


「不思議な思考ですね」眉一つ動かさない柳生は、それでも、目の一番底をぎらぎらと鈍く光らせていた。俺は精一杯の虚勢を張ってニヒルな笑みを口元に張りつけてみるが、柳生はそんな俺を視線だけで嘲笑う(俺にはそう見える)。一見するとただの眼鏡の真面目ちゃんに見えるのに、纏う雰囲気は支配者のそれだ。空気の変化にまたぞくりと背筋を震わせて、俺は唇を舐める。言葉が揺れないように。「柳生も、な」そう、その表情。俺の台詞が周囲に馴染む前に、柳生の口端にうっそりと深い笑みが浮かぶ。表情は笑っているのに、その視線は先程と真逆で驚くほど色を失っている。冷たいはずのその光線に、身体中を舐め回すように見つめられて、身体のそこかしこが発火したように熱くなるのが分かった。喉が鳴る。目眩がする。ゆるゆると思考が奪われるのを自覚しながら、俺は柳生のネクタイに手を掛けた。


柳生は今日も真面目だ。制服は何の不備もなく、勿論皺一つだってありはしない。後ろの尻ポケットにはハンカチーフが常備されているが、それは主に俺や柳生に用いられるものだ。「手はちゃんと拭きなさいと言ったでしょう」自然乾燥、と無理矢理に名前を付けて振り回していた手は、あっという間に柳生に捉えられた。指先の隙間まで、きちんと細かく水分を拭ってくれる。おまけに手が荒れているからとハンドクリームまで塗ってくれる始末だ。面倒見がよくて、俺のことをきちんと考えていてくれる。やっぱり、俺は柳生が好きだ。「じゃあ、」「待ちなさい」「ん?」「昨日の夜、どこにいたのですか。場合によっては」外耳を這う濡れた感触に、堪らず声が詰まる。そのまま俺の耳たぶを甘く噛んで、柳生は返答を待つ。思考が霧散してゆく、何も、考えられない。「丸井と、マック、」「それは、許しがたいな」がりっ。犬歯が容赦なく柔らかい皮膚に突き刺さる。出血には至らなくとも、痛覚が拾った痛みは計り知れなかった。瞬時に膝ががくんと折れ、歯の隙間から悲鳴が漏れ出る。ああ、痛い、うそ。気持ちいい。やっぱり、俺は柳生が大好きだ。


柳生に噛まれた耳は、撫でられた肌は、見つめられた目は、キスされた口は、舐められた胸は、殴られた頬は、全部、柳生しか必要としなくなった。そもそも、身体全部に柳生が触れているから、もう俺には柳生しか必要ないのかもしれない。柳生だけがいれば良いなんて、何て単純で明るい未来。乾いた喉はけらけらと不器用な音を立てながら、崩壊を喜ぶかのように引きつった。ああ、これは。


絶対的なまでのその眼差しで、どうか俺を射殺してくれ。



















「みたいな感じかのう?」
「感じかのう?じゃないですよ!貴方、本当にこれを提出したんじゃないでしょうね!」
「した。国語の課題で小説書けーっちゅうんじゃ。間違ったことはしとらん」
「貴方って人は本当に…。しかもこれ、小説になってないですよ」
「はっはっは、そうかのぅ。ま、フィクションじゃけ笑って許せ」
「………才能の無駄遣いだ」









俺が生み出すものは何でもかんでも嘘っぱち。でも、真面目で、真っ直ぐで、俺が悪いことすると殴ってくれる柳生のことを好きなのは、本当の本当だけどね。









end


小説の課題に柳生の話を書いた(勿論捏造)仁王と、それに呆れる柳生の話。小説内の二人ですが、ただ本当に仁王の戯れで書いたものなので、現実の二人にSMな関係はありません。
ここまで解説が要るって、正直どうなんですかねすみません土下座。

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