□君の名前
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きりーつ、きょーつけ、れーい。



学級委員の気の抜けた号令が掛かり、非常に緩く五限目が開始される。
がたり、がたり。
いかにもやる気の無さそうに椅子を鳴らしながら、生徒達は各々の席に座った。

「仁王君、もう少し元気出してね」

他にもやる気無い挨拶をした奴はおるじゃろうに。何でわざわざ俺?
笑顔を顔に張り付けながら注意する英語教師を軽く睨む。

「そんな顔しない。ほら、皺出来てる」

益々楽しそうに笑いながら自らの眉間を突く彼女を、やはり自分は好きになれないなと思った。だから、一つあかんべーを。
それを見た教師はまた何か言って、それに教室中は笑ったけれど、俺には関係無い事だから、早々に頬杖をつき、窓の外を眺めた。ただ、クラスメイトに混ざりながら俺の目の前の席で爆笑する丸井ブン太の椅子には、後ろから渾身の蹴りを入れておいたが。

「うあっ、てめ、仁王!」

ガンッ。予想外に良い音が響いたことと、予想外にリアクションの大きい丸井に、それぞれ溜息をプレゼント。

「丸井、うっさい」
「は?!お前がいきなり蹴ってきたんだろぃ?!」

ぎゃあぎゃあと食って掛かってくる丸井に、少しだけ顔を近付けて。

「外、愛しのハーフ」

指差しながら教えてやれば、途端に喚くのをやめ、一心に外を見やる。
可愛い可愛い。
そんな俺たちを一瞬注意しかけた教師は、苦笑しつつも丸井を呼び、授業に参加させた。

「じゃ、先週のテスト返します。列ごとに取りに来て」

そう言えば、そんなテストがあった気がしないでもない。出来なかった記憶はないが、懲りずにグランドを眺める丸井よりは出来ただろうから特に気にしない事にした。

「竹中君、前田君、ほら、早く来て」

しきりに手を振る丸井を眺めていると、いつの間にか俺の列が呼ばれていた。ジャッカルに釘付けで席を立とうとしない丸井(サッカーをしているジャッカルを応援しているらしいが、如何せん太陽光がスキンヘッドに反射して眩しすぎる)を半ば押すように立たせ、その後に続く。

「片倉君、武田君、はい最後は桑原君に柳生君!」

小突き合いながら遅れてやってきた丸井と俺の前に、教師は二枚同時に解答を差し出した。
瞬間、教室全体がクエスチョンマークにが浮ぶ。

「先生、ジャッカルも柳生もうちのクラスじゃないっすよー」

どこからか声が掛かった。ほぼ同時に、俺は丸井を、丸井を見て、そしてお互いに溜息を。

「まさかお前さんと同じ事考えるなんての」
「あーあ、つまんねぇの」


















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