□純情少年。
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えぇ、お早うございます。











と、たったそれだけ、声を掛けてくれたクラスメイトに返事をしただけだったのに。
次の角を曲がった瞬間、何とも有難い事に仁王君からローキックを賜った。

「っだ!に、仁王君?!」
「うっさい柳生さん。俺ん前で他ん女と喋んな」

慌てて眼鏡を(落ちてもいないのに)直していると、あまりに可愛い答えが返って来たから思わずきょとんとしてしまった。

「あん女、誰」
「先程の女性ですよね?」

あぁ彼女はうちのクラスの方で、奇遇にも私と委員会が同じなのですよ。更には彼女自身もテニス部でしてプレイスタイルまで私と似ているのです。成績も優秀で彼女のとったノート程見易いものはありませんね。

「試験前には……って、うわっ!」

まだ終わっていないのに。教室だってまだ先なのに。仁王君にどん、と体当たりされ体が左に傾いだ。そのまま丁度隣に位置していた男子トイレにもつれ込む。

「に、仁王君?!」
「なんそれ、わざと?」

全体重を預けてくる仁王君をギリギリで支えて汚い床にダイブするのだけは防いだ。崩折れない様に抱え直し、正面から抱き締めてやれば、仁王君は頭を垂れてうなだれる。

「じゃけ、お前さんは、」

小さな声を聞こうと力を抜いたのがいけなかった。ず、と仁王君の体に力が籠もったかと思えば、そのまま押され、背後の壁にぶつかる。

「仁王君?」

今日の仁王君はいつにも増して訳が分からない。奇抜すぎて彼の名前を呼ぶことしかしていない気がする。

「あの、にお…」

仁王君、何か言いたい事があれば遠慮なく仰って下さい。
そんな言葉はふいに近付いた仁王君の唇へと吸い込まれてしまった。ぴく、と思わず体を固めると隙間のない唇から相手の笑みが如実に伝わる。反抗しないでいると、自らのネクタイを抜き取られる気配がした。
体を引くも背後の壁へ阻まれて、何だかんだの内に後ろ手で両手を拘束されてしまったようだ。

「つーかまえた」
「相変わらずの早業ですね。さて、何を為さるおつもりですか」

満足気に笑う仁王君に、冷静に問う。非日常な空間であったが、仁王君とつるむ以上それは当たり前のことであったので、意外にも動揺せずにいれた。













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