□正体は君だった
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「俺は柳生のなに?」

仁王くんにキスをしたら、そう言われた。

普段の飄々とした態度とは違い、困ったような顔をする仁王くんの問い掛けは、今の状態を打開するのに最も直接的かつ簡潔なものだったように感じる。かく言う私は仁王くんの問いに答えることは出来ず、寧ろ自分が答えを知りたいとさえ心中で考えており、表情は彼のものより数段困惑した風になっているだろう。

「私の、何、でしょうか」

先程より更に眉尻を下げて首を傾けた私に、仁王くんはふっと表情を和らげた。
謂わば被害者である立場の彼が、剰え加害者である私にそのような態度を取るのは些か世の理に反している気がしたが、貴重な彼の笑みだ。有り難く戴いておくことにする。

「自分でも分からんの?」

仕方ないのう。
仁王くんはそう言って表情を一転させると、いかにも愉しげにくつくつと喉を鳴らしながら笑った。
芝生の上に寝転び、ぐっと大きく伸びをする彼は本当に猫の化身か何かではないのだろうか。しなやかすぎるその肢体は滑らかな動作を生み、それがこの上なく彼の流麗な顔立ちに似付かわしいのだ。さながら自分は妖猫に憑かれた悲しい人間辺りなのだろう。

「申し訳ない」

彼の瞳の色を知りたくて視線を下げるが、仁王くんは一寸すらもこちらに視線を向ける気はないらしく、ただ真っ直ぐ木々の間から漏れる陽光を見つめている。彼の興味は自分より日光にあるのかと思うと少々悲しい気がした。

「答えは一つじゃろ」
「え?」

相も変わらず仁王くんを見つめていると、切れ長の目の中の琥珀色が私の方へと寄った。彼は薄く目を開き、まるで私が眩しいかのような仕草をする。不思議に思って首を傾げると、その動作に仁王くんはまた笑った。

「じゃけぇ、」

自分に向けて伸ばされた腕は、やはりテニス部と云うには些か頼りなく、しかしながら骨張っている様は立派な男性のものだ。
ますます近付くその手はどうやら私の顔を目指しているようだったが、私の予想を全くもって裏切り、座っているままだった私の後頭部へ辿り着く。
目を白黒させていると、後頭部に置かれた彼の左手は下に向けてすごい力を加えてきた。
込められる力に逆らえない私は(だって重力がプラスされている)どうすることも出来ずに上半身を折り曲げる羽目になるのだが、何てったって私は体が固い。
うめき声を上げるなと言う方が無理な注文だ。














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