□髪切り虫
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髪を切った。
ラーメンを食っていたら長い髪がスープに入って、なんちゃってつけ麺状態になっていたからだ(笑えない冗談とはこのことだ)。
どのくらい、と問われると困ってしまう。だって。

「その髪は何ですか仁王くん!」
「あ?」

ざくざくと思いつくままに自分で切ったのだから、量なんて分かる訳もない。長さで言えば5センチくらいではなかろうか。いやしかし人間の感覚は酷く曖昧だから(特に俺は)、もしかしたら床に散っている銀達は軽く10センチを越えているかもしれない。

「どう、されたんですか」

左手に鋏を持ちしゃきしゃきと軽快な音を鳴らす俺に、柳生は少なからずの動揺を見せる。当然だろう、トイレから帰ってきてみたら、部屋主が床に座り込んで髪を切っていたのだから。

「うざったかったんよ」

小テーブルに置かれた食べかけのラーメンを指差しながらそう言うと、柳生は眉根を寄せて重苦しく溜息を吐いた。次いでこめかみを利き手で押さえる。
何だってお前が困り顔をするんだ。俺の髪なんざ、俺の自由だろう。まぁ確かに切ったままに髪を床に散らしたのは少々いただけなかったかもしれないと思うが。

「貴方は本当に突飛のないことばかりなさる」
「そ?」

相変わらず2拍子のリズムを刻んでいた俺の左手は、近寄ってきた柳生の右手によって動きを停止される。そのままするりと鋏を抜き取られてしまった。名残惜しげに僅かばかり力を込めてみたものの、戒めるような柳生の視線によって何だか悪いことをしているみたいになったからすぐに力を抜いた。

「勿体ないことを、」

俺の隣に膝をつき、床に力なく横たわる銀を掬いながら柳生が発した言葉は、ほぼ無意識だったのか、呟き程度の音量だった。俯いて髪を集めているため表情は見えないが、恐らく落胆の色をしているんだろう。

「柳生にやる」

柳生が集め損ねた髪を床から拾うと、柳生の眼前に差し出した。怪訝な表情を浮かべる柳生へ、更に髪を突き出す。

「あーん、て」

口角を上げて歪んだ笑みを浮かべながら柳生の口元へ銀を運ぶと、何ということもないという風に柳生は口を開いて俺の毛髪を咥内に招こうとした。驚いたのは俺の方で、慌ててその手を引く。それを見た柳生は満足気に鼻で笑い、自らが手の平に集めた俺の髪を愛おしそうに眺めた。そして側にあったティッシュの箱から2枚を引き出し俺の髪を包むと、あろうことか自分の鞄にしまったのだ。









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