□あいかわらず、
1ページ/2ページ









メタルピンクの上に、黒い艶やかな蝶が飛ぶ。










この部屋にはこの上なく似合わないと、思う。モノトーンで統一されたスタイリッシュな柳生の部屋に、こんな毒々しい色合いの箱なんて。開封済みのそれを片手で振ると、中でからからと乾いた音がした。

「似合わん」
「は?」
「おまんにこんな下品なん似合わんよ」

指先でゆっくり箱の蓋を開ける。ベッドに仰向けになったままでは少しやりにくかった。柳生はしばらくそんな俺を隣で見つめていたが、すぐに俺の手を止めさせる。器用に動く指先で箱を取り上げられてしまっては、もうどうしようもなかった。追い掛けた手のひらは柳生に包まれてしまう。

「今日はもうしませんよ」
「何で?まだゴムあるんに」
「だからって、別に使い切る必要ないでしょう」

俺から奪い取ったコンドームの箱を、柳生はベッドの上から学習机へと投げやった。かすんと音を立てて箱が着陸した机の上には、英語の教科書やら数学の参考書やらが乗っているのだから、本当に可笑しくて仕方ない。学校の連中がこの様子を見たら何と思うだろう。想像すると忽ち笑いが込み上げてくる。傑作だ。

「俺は生でもええけど」
「ダメですよ。ほら、もう寝なさい」
「のぅ、俺たち、今日何回したっけ」
「知りません。ゴミ箱の中、数えてみれば分かりますよ」

はは、冷たいのぅ柳生は。
吐き捨てた言葉は柳生の唇に吸い込まれた。唇も、手のひらも、身体も、全部に柳生がひっついている。ぴったりと、熱が移る。温かくて少しずつ眠くなっていくような気がした。柳生は不思議だなあ。俺の嘘も倨傲も偽りも嘲りも、何もかも吸収して中和する。

「柳生、好いとうよ、」
「何ですかいきなり。君らしくもない」
「じゃあ嫌い」
「ふふ、どっちですか」

眼鏡を掛けないと柳生の目元はぐんと鋭くなって、俺にも負けないくらい眼力を生み出すのに、一度柔和に笑ってみたりしたら、それはそれは優しい顔になる。まるで世界中の綿を集めて塊にしたみたいな。ふわふわで真っ白くて、赤ちゃんみたいに純粋で甘い匂いがする。柳生はとろけるような蜂蜜色の光彩で俺を見て微笑んだ。目尻を下げて笑う様子は文句なしに可愛い。

「柳生も俺のこと好きか?」
「言わせたいんですか」
「是非とも聞きたいですねえ」
「私の真似する悪い子には言ってあげませんよ」
「いやーん、ごめんなさーい」
「女性の真似は嫌いです」

右頬を抓る指先は、涙が出るくらい優しかった。確かに痛みはあったけど、柳生の心遣いとか、俺への愛とか(自分で何言ってんの、俺)、そんなものが色々感じられて。改めて、俺は死ぬほど、柳生を好きだと思った。

「ごめんひゃい」
「よろしい」
「なぁやっぱりえろいことしよう」
「はあ?」
「柳生のこと好きだから、えろいことしたい」

今度は頭を叩かれた。ワックスも何も付いてない髪、そのまま柳生に掻き回される。髪がぼさぼさになるのは嫌だったから小さく抗議するが、柳生はやめようとせず、ますます強く頭を荒らす。仕舞には抱き込むようにして捕らえられてしまった。柳生の胸の中は温かくて気持ちが良いから、俺はそれきり抵抗しなくなる。






次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ