□青、故に紆余曲折
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その頃、僕らはまだ、ほんの子供だった。







「えっ、今、なんと、」
「じゃけ、別れてくれんか」
「そんな!突然!」

仁王が、柳生に少し距離を置きたいという旨を伝えてきたのは2週間前のことだった。確かに定期考査を間近に控え、更に言えば高校受験も迫ってきている時期だったので、仁王が漸く真剣に勉強と向き合おうと思ってくれたのか、と、柳生は安堵したのを覚えている。しかし、以前あれだけ自らの傍にいたがって、何よりも自分との時間を大事にしてくれた仁王のその発言に、少なからず傷付いたのもまた事実だ。

「何で、別れるなんて、そんな。急すぎます!」
「今まで距離置いとったろう?恋愛で1回距離置こうなんて、別れようとおんなじ意味じゃ」
「私はそんなつもりで距離を置いた訳じゃ…、」

2週間。恋愛の経験値が皆無に等しい柳生にとって、その期間は長くもあり短くもあった。元来携帯を弄ることはあまり好きではなかったから、仁王からの連絡がなくとも何とも思わなかったし、空いた全ての時間を勉学や読書に費やせるということはこの上ない喜びであったのだ。しかし、一方で、ふとした瞬間。例えば、風呂に入った際だとか、夜、布団に入った際だとか。自分の集中力が切れて何も考えることが無くなった時、否応なく考えてしまうのは仁王のことだった。今何をしているだろうか、自分のことを少しでも思い出してくれているだろうか。そう何度も思いはしたが、距離を置こうと告げられた手前、柳生は結局仁王に連絡する勇気を持てなかった。仁王には仁王なりの事情があるのだろうから、それを1番に尊重してあげたい。それが、縛られることを嫌う仁王への最大限の配慮であると、信じていたからだ。

「何でですか。私にダメなところがあるのなら何でも直します」
「無理じゃ」
「ねえ、どこがいけないんですか。髪型?眼鏡?体型?性格?何を変えたらいい。もっと君のこと甘やかしてあげます、大事にします、だから」
「……そーゆうとこ。お前さんのエゴばっか押し付けてきよる」

苦々しげに表情を歪めた仁王に、柳生は瞠目する以外の術を知らなかった。エゴ?そんなの嘘だ、柳生は今まで仁王のことを第一に考えて仁王と交際してきた。何をするにも、とにかく仁王の意志が最優先事項なのである。それから仁王をとびっきりに甘やかして、とろけるくらいに愛した。毎日愛を囁いて、ずっと隣に座って温もりを共有して。柳生の生きる意味は仁王であったし、柳生自身、仁王の生きる意味は自分であると思っていたのだ。それをこんな風に、エゴであるなんて、嘘をおっしゃい。自分の優しさは仁王にとって不可欠だ、なくてはならない、それなしでは生きられない。そうではないのか、少なくとも自分はそうであると信じて生きてきたのに。仁王にとって自分は、一体何の意味を持っていたんだろう。

「私のこと、嫌いなんですか」
「優しいところが、嫌い」
「えっ」
「優しいだけじゃ、いかんのよ」











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