J
□くちびるのねつ
1ページ/1ページ
「んだよ、これ、」
早朝、自宅の鏡を見て俺は唸った。最悪、劇的に学校行きたくねぇかも。
「ブン太、昼飯ー…って何死んでんだ、お前」
「うっせぇ、向こう行け」
とにかく学校には行き、そして昼までは何とか持ち堪えた。しかし、しかしだ。他の奴らはともかくとして、ジャッカルにはこんな顔見せられない。机に突っ伏せたまま追い払ってみる。
「はいはい、行くぞ」
「うなっ、離せっ離せっ!バカ!ハゲ!」
あぁ、もうこんな時だけ強引なんだ。荷物を運ぶかのように肩に担がれ、そのまま屋上に連行。
その間、逃亡を謀るため俺は必死にハゲの背中を叩いて攻撃していた。いてぇ、いてぇ、ハゲがそれだけ言いながら笑っていたのが、一番ムカついた。
「到着っと。で、何があったんだよ」
「‥‥‥‥」
屋上に着いて早々、どかりと腰を下ろしたジャッカルは、俺を前から抱き込む。勿論俺はずっと顔を隠していたが。
「こっち向けって」
「‥‥‥いや、だ」
ふぅ、と溜息が吐かれる。まただ、またジャッカルに迷惑を掛けた。罪悪感に身が竦む。ごめん、ごめん。
「ブン太、」
「‥‥‥」
背にあった手が首をなぞり顎を辿り、ゆっくりを俺を上向かせる。見られる、いやだ。
「わ、何だこれ。痛いか?」
「痛くはねぇけど、‥‥キモくね?」
俺が今日ずうっと気にしてたもの。唇の周りに出来た発疹。ぷつぷつと膨れるそれは熱を持ち、不快さだけを俺に伝える。痛くはなくとも気になってしまい、思わず触れれば軽い刺激にぷちりと皮を破く。染みだした汁は周辺を犯し、たちまちに新しい発疹を作る。それの繰り返し。半日で俺の口周りは見事に腫れた。
「痛くねぇんだな?舐めても染みたりしねぇ?」
「それは、別に‥」
あれ、キモくねぇの?
純粋な疑問を抱え見上げると、不意に唇に感触。
べろりべろり。
「俺にうつせよ」
「っ、‥」
キスというには拙すぎる。愛撫というには幼すぎる。でも、暖かかった。
舌と唇と使い、ひたすら傷を舐め上げる。
かと思えば、ちゅうと吸い上げ、歯を立て傷を広げる。
矛盾甚だしい口付けは長く続いた。
次の日、口周辺の発疹を悪化させた俺と、うつされたジャッカルは二人揃って病院に行くことになる。
「バカ、ハゲ」
「すいません‥」
「でもさ、二人とも同じ病気ならさ‥‥」
いっくらキスしても良いんじゃね?
end