□雨粒ラヴァ
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雨が、降っていた。朝から、ずっと。
差し迫った大きな大会もないこの時期、案の定コートでの部活は休みで、珍しく筋トレも無いらしい。
俺はこれ幸いと、足早に昇降口に向かった。
土砂降りというには少し弱いくらいの雨が、それでも絶えることなく天から落ちてくる。
不機嫌そうに曇り切った空が、何か訴えているようだった。

「よぉ、」

掛かった声に振り返れば、赤毛の恋人がにかりと笑んだ。

「おー、案外早かったな」
「ん、女子に任せてきた」
「おいおい」

委員会だから。そう言った彼を、実は待っていた俺。早々な登場に感謝はするが、任せられた女子は堪ったものではない。無意識に苦笑が揺れた。

「じゃー、帰っか」
「おう」
「‥‥‥何、してんだ?」

帰ろうと傘を開けば、さも当然というように彼が割り込んでくる。大きめの蝙傘とはいえ、男二人にはやはり狭い。大体、男子が相合傘をする程悲しい事はないだろう。
まぁ、俺達は恋人同士なのだが、一般から見れば異常なのは当然だった。
それに。

「お前、傘あるだろう」

彼の右手にはしっかり傘。傘があるのに相合傘なんて余計に変ではないか。

「それさせって」
「えー‥‥‥あ!」

ほらそうやって。またすぐに悪戯顔。何か思い付いたみたいな得意顔。
言わないけど、堪らなく、それが好き。

「じゃ、こーする」

そーれっ!






びっくり、した。
雨の中突然グランドに走りだし、中央で傘を開く。
あぁ、やっとわかったか。ふっと笑い、目を伏せた瞬間、
ばきょっ!!!
歪な歪な音。
驚いて顔を上げれば、そこで笑うブン太がいた。
右手には無残にも折られたビニール傘。
容易に想像できる。
どこぞの野球部のように、思いっきり傘を振ったんだろう。
ナイス、ブン太君。
実際に球があればきっと場外ホームラン。

「傘壊れちまった。な、入れろよ」

雨でぐちゃぐちゃなグランドを走って来たブン太が笑う。背中には茶色の水玉が出来ているだろうに、ぱちり、とウインクされた。
何か、全てにおいて全力投球ですね。素敵だよ、ブン太君。

「おいで」







傘に隠れてキスをしよう。視界の悪さを武器にして、手を繋ごう。
降り続く雨に呑まれて抱き合おう。






end

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