□キャンディの魔法
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俺は毎日飴を持っている。棒の付いた、少し大きめの飴。別に俺は特別飴が好きな訳じゃない。寧ろ甘いものなんか好きじゃないし、出来るだけ避けたいところだ。
じゃあ何で持ってるか、
そんなの簡単じゃねぇか。
あいつにあげるため。






「ジャッカルー、帰んぞー」

部活を終え、そそくさと着替えを済ませたブン太は扉の前に立ち俺を呼ぶ。

「まだ時間掛かるからよ、先帰って良いぜ?」

ロッカーをがさがさと漁りながら視線をそこから離さずに言うと、扉が一度開いて、そして閉まった。
ブン太が待ってくれるとは毛頭思ってなかったから、当然と言えば当然のことだった。
ゆっくりと支度を終え、漸く扉を出たのはブン太が去ってからどれ位の時間が経っていたか。夕日が眩しいが、それでも真冬の寒さだった。

「遅ぇよ」

後ろ手に扉を締め、さぁ帰ろうかと歩き始めれば、ズボンの裾がつん、と引っ張られた。同時に右下が声が掛かる。見下ろせば、体育座りで顔を埋めるブン太がいた。余程寒いのか、くすんくすんと鼻を啜る。

「何してんだよ」
「飴。今日まだ貰ってね」

あぁ、成る程。
俺じゃ無くて飴ですか。
待っててくれたのかと感動した俺が馬鹿でした。

「中で待ってりゃ良かったのに。ほら、」
「ん、サンキュ。サプライズだよサプライズ」

ポケットから取り出した、俺の体温で少し温い飴。
温い、と文句を言うかと思えば、これ以上無い位に笑顔になったから、少し驚いた。

「剥いて」
「ったく、そろそろ自分で出来るようになれよな」
「嫌」
「何で」
「ジャッカルがしてくれるのが良いんだよっ!」

頭がぐわんと揺れる程の大声。割りに内容は限り無く可愛い物で。

「仕方無ぇなー‥ほらよ、甘えたブン太君」
「あー‥ん、俺様に飴を剥けんだ。光栄に思え」
「はいはい」

精一杯に強がる君が可愛くて。あぁもう、俺は何て幸せ。
人は笑う。
現実を見ろ、と。
良いじゃないか、夢を見たって。
俺はこいつとなら、何だってできるんだ。






「手、」
「ん?繋ぐか?」
「おう。て、つ、めたっ!触るなハゲッ!」
「おいおい、今のは理不尽じゃねぇか?おら、冷てぇだろー」
「うやぁあー!セクハラー!助けてください!ヘルプ!ヘルプミー!」
「ちょ、何言‥」
「あはははは!」






俺は毎日楽しいよ。
一つだけ、お前に教えてやる。
ブン太の家に着いた時、あいつは俺に食ってた飴をくれるんだ。
堂々と間接キス。






羨ましいか?
絶対渡さねぇからな。






end

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