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□俺様の手足
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キーンコーンカーンコーン
創立百年を軽く超える物々しい校舎に四限終了のチャイムが鳴り響けば、その瞬間、立海大附属高校男子生徒の約半数が売店へと走り出す。
「ふぁ、ねみぃ」
俺はそれを端目に大欠伸。彼等のお目当ては一日十個限定の牛乳プリン。
あれは正直めちゃウマい。
俺も大好きで、否の打ち所のない食い物だ。まぁ、一つ難点を上げれば、競争率の高さ。俺みてーな奴(要するにちびっこ。むかつくけどな!)が行っても取れっこない。
「あれ?丸井君ってプリン争奪に混ざらない派だったっけ?」
俺が甘いもの好きだということを知っていたのだろう。クラスの女子の問い掛けに俺はこう答えた。
「まぁな。俺には優しい彼氏がいるだろぃ?」
「あはは、買って来てくれるんだ。羨ましいな」
本当に羨望の目を向けられて少し鼻が高い。背を反らしてふふん、と笑ってやった。あいつが褒められると自分のことの様に嬉しくなる。
「っ、ブン太いるかっ」
一人優越感に浸っていると待ち侘びた彼の声がする。
「彼氏お疲れー」
「毎日頑張るねー」
「丸井君お迎えだよー」
途端にクラス中から聞こえる囃子の様な歓声。その様子に彼―ジャッカル桑原―は眉を潜める。
「あのなぁ、誰がこれの彼氏なんだ?意味分からないぞ」
傍に寄っていた俺を指差し有ろう事か"これ"扱い。俺は拗ねた振りをして俯いてみせる(演技演技。本当はぶん殴ってやりたい)。すると再びクラス中からの歓声‥‥いや、批判。
「おいおいそんな言い方ないぜー?」
「丸井君可哀相ー」
「酷いー」
完璧。こうなりゃ俺のモン。
「だぁー、もうっ。じゃ、ちょっとこれ借りるぞっ」
ジャッカルはそう言うと俺の手を引いて教室を出る。
その瞬間に背後から聞こえる祝福の声と、繋いだ
まま引っ張られる手が心地良い。
俺とジャッカルは学校公認の間柄。ジャッカルは否定するけれど、皆受け止めてくれている。多分受け止め方は人それぞれだろうけど、やはり堂々としていられることは幸せだと思う。いつもの昼食場所―屋上―に向かうまでずっと手を繋いでいたけれど、好奇の目なんて一つも感じなかった。
先生たちもまたお前らか、仲が良くていいな、と笑んでくれるくらいだ。
屋上に着くと、目の前の薫製玉子がペコリと頭を下げる。
「何だよ?」
「プリン買えなかった。すまねぇ。明日は頑張るからよ」
顔の前で両手を合わせて謝る彼。そんな彼の体にまだ血の滲む、真新しい傷を見付けた。
「お前さ‥それ‥」
「え?あ、あぁ何でもねぇよ」
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