□砂糖菓子より甘く
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最悪だ。最低最悪。今の若い子たちは無闇に「最悪」だとか「最低」だとはいう言葉を使うが、そういう言葉は正に今みたいな時に使うもんだ。





自室のベッドに潜って、脇に挟んだ体温計を盗み見る。

[38.9℃]

喉も痛いし、クラクラする。鼻水が出ないのがせめてもの救いだけど。完璧なる風邪。
夏だからと言って、布団も被らずエアコン全開で寝ていたからだろうか(俺的には被っているつもりだったが、いつの間にか脱いでいた)。
つか、夏風邪って馬鹿が引くんだっけ?引かないんだっけ?

「最っ悪!」

乾いた音しか出ない喉から必死に声を紡ぎ出す。
今日はジャッカルとデートに行く筈だった。まぁ、デートと言っても当然の如くケーキバイキングだけど。俺は、凄く凄く、物凄く楽しみにしてた訳で。

「あー‥」

だるい体を布団に沈めながら唸る。頑張れば行けないことはないが、ジャッカルならすぐ様俺の異変に気付く筈だ。そしたら無意味、速攻帰宅。おまけに余計迷惑。
となれば、断るしかねぇよなぁ。
涙ながらにメールを作り始める。10時に俺んちに迎え来る筈だから、まだ1時間程ある。きっと家だろう。

[件名:悪ぃ]
[今日のバイキングだけど用事入っちまった(T_T)
マジ悪いー(>_<)]

用事だと嘘を吐くのはジャッカルが優しいから。敢えて電話しないのもジャッカルが優しいから。今の声を聞かせて、風邪だなんてバレたら直ぐにすっ飛んで来る、と思う。そうなれば、風邪をうつしてしまう事だって有り得るから。この大事な時期に、それだけは避けたかった。
でも、このデートは数週間前から計画していたもので。
仕方無しとは言え、少しの罪悪感が募る。
そのお詫びとはいかないけれど、少しだけでも愛を届けたい。今にも倒れそうな体を引き摺り、窓辺に寄る。半ば倒れ掛かりながら窓を少し開け。携帯を外に差し出す。
今日は快晴。余計に俺の心を締めつける。

「‥っ送信‥!」

送信ボタンを押せば。見えないけれど、緩やかに飛んで行く電気の波。
どうか俺の愛も一緒に届けてくれます様に。
そのまま崩折れ、連れてきた毛布にくるまって眠りにつこうとした俺に聞こえたのは、聞き慣れた、でも何故か聞き慣れぬ自らの声。













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