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□甘くて赤い照れ隠し
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今年もこの季節がやってきた。言わずと知れたバレンタイン。俺このイベント、大好きなんだ。
「みんなー、今年もバレンタインシクヨロ!」
大声を上げながら3年生の廊下を駆け抜けると、各教室から女子の快い返事が聞こえた。校舎内を疾走する俺を真田が俺を叱る声が聞こえた気がしたが、聞こえなかった事にしておく。
「ふぅーっ…今年もたくさん貰えるぜぃ」
これは俺の恒例行事。バレンタイン2日前の昼休みに募集を掛けるのだ。そうすると本当に大量のチョコレート(に限らずお菓子)が集まる。
その大半は義理であり、女の子達はそれを理解してくれているから、お返しも簡単なもので済んでしまう。お菓子が欲しいだけの俺にとってとにかく最高のイベントなのだ。
「お待たせ、ジャッカル。お前もシクヨロな」
昼食を共にする為に階段に待機させていたジャッカルの元へ寄ると、日当たりの良い中庭へ向かう為彼のシャツを軽く引く。彼は俺のこの行為を快く思っていないのだろうが、これは今年で3回目だ。彼なりに慣れた様で、ジャッカルは溜息を一つ吐いただけで大人しく俺に従った。
「安心しろぃ、お前のは特別だっつの」
一足先に階段を下りながら振り返ってそう言うと、ジャッカルは一瞬呆気に取られてそれから嬉しそうに笑った。その後隣へ並んだジャッカルが俺の頭を混ぜくって、俺はそれに笑顔を浮かべ形だけ嫌がるフリをする。
何ともない、幸せな日常がそこにあった。
「バッカ!天才的な髪型が崩れんだろぃ!」
「大丈夫だって、崩れても格好良いぜ」
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「まーるい先輩っ!」
「んぁ、どーした?」
いつもと変わらぬ昼食の後はいつもと変わらぬ授業を受けて、いつもと変わらぬ部活をこなした。まだ涼しいと言うより寒いコートから早く部室へ避難しようと駆けると、赤也に声を掛けられる。
「先輩知ってました?今年は逆チョコなんスよ!」
「逆チョコぉ?」
「そ。男から女子にあげるってゆう!」
「興味ねぇ。」
自分に何の得も無い事を何故しなきゃいけないんだ。0コンマ4秒でばっさりと会話を断ち切った俺に、赤也は人でなしやら鬼やら言っていたが気にしない。
「先輩なんて女に刺されて死んじゃえ!」
「ちょ、テメェ歯ァ食い縛れ」
いつもと変わらぬ日常がそこにあった。
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