□本棚の秘密
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かしゃーん。










無機質な音。DVDのプラスチックケースとフローリングの床が喧嘩したのだ。俺は思わず取り落としてしまったDVDを拾い上げる。と、やはりそのDVDのタイトルに気が遠くなるのを感じた。

"爆乳天国!ポロリもあるよ!"

DVDを裏返すと、裏面にはより詳しく内容が書かれていた。タイトルからしてアイドルがきゃっきゃするだけのもとかと思ったが、不覚、俺が甘かった。これは完全なるアダルトなビデオってやつだ。写真に写っている女たちは、巨大な乳を振り乱しながら悦楽の表情を浮かべている。彼女達の股間に容赦なく突き刺さっているものは、違えようもない、男のグロテスクなソーセージだ。おまけに無修正と来たもんだから、俺はもうひっくり返りそうになった。その右に表示されている踊り文句ば115cmのLカップ!゙。化け物じゃないのか、いや、化け物だろう。あまりのサイズに想像すら危うい俺は、右手で1つずつ数えることにした。A、B、C、D、E、F、G。H、I、J、K、L、いつの間にやらリズミカルに口端から漏れ出たアルファベットの数え歌。それはあまりにも驚愕のサイズを示す。

「Lカップ、尋常じゃねぇ」

再び視線を戻した先、ショッキングピンクのフレームに包まれて、彼女たちは男を誘惑していた。そう、男を誘惑していたのだ。Lカップだからとかどうとかいう前に、アダルトビデオってものは男のためにあるということが重要なのだ。そしてこの家に住む男は、生物学的、精神的に考えても(考えなくも2人しか住んでない)俺とジャッカルの2人だ。と、なると。
俺の持ち物じゃないなら、イコールジャッカルの物。

「あッの、やろ」

チッと舌打ちをすると、俺は手に持ったDVDを傍にあったソファへ強めに放る。DVDは不細工にバウンドしながら軋んだ音を立てて、同時にプリントされたLカップもぼよんぼよんと揺れている気がした。床に叩きつけなかった自分を、本気で偉いと思う。DVDがソファの隅に体を落ち着けると、俺はその隣に腰を落とした。
俺が怒っているのは、DVDを所持していたことではない。俺だって男なんだから女の胸は好きだし、勿論アダルトビデオだって観たいと思う。2人で観ながらあれこれ感想を言い合って抜き合いっこしたりするのもまた一興だとすら、思うのに。ジャッカルはそれを隠した。確かにブックカバー被せて本棚に入れときゃあそりゃ気付かない。俺は大雑把だからあんまり掃除しないし、本なんかに興味はないし、こんなとこ見ないと思ったんだろうけど。暇を持て余し、偶々覗いてみたらあったんだから、仕方ないだろうが。
まぁだからと言って、ジャッカルがこれを隠したがる気持ちが全く分からない訳でもない。確かにあいつはグラマーな姉ちゃんが好きで、俺はグラマーな姉ちゃんじゃなくて、というか寧ろ女じゃなくて。多分ジャッカルのことだから俺に気を使ったんだろうけど、でも何か少しだけ、裏切られた気分だった。裏切られたっていうと随分仰々しい言い方だけど、おそらくその表現が1番しっくりくる。
ぽけっとDVDを見つめている筈なのに、俺の頭はぐるぐると思考を巡らした。お昼の番組が流れるテレビは、誰も見る人がいないのにずっとけらけらと笑っている。明るい画面から光が溢れ出て少しだけ欝陶しい。




‐‐‐‐




俺がたっぷり1時間そこから動かなかったのは、別に落ち込んでいたからって訳じゃあない。いやだって男ですし、あれだ、泣くより殴るタイプですし。
ずっとかジャッカルに対する制裁を考えていた訳だ。今までテレビのバラエティなんかで旦那や彼氏のアダルトビデオを見付けた女たちが加えた制裁はいくつか見かけたことはあったが、そのどれにも負けないくらいインパクトのデカいやつにしてやる。

「天誅、ってな」

ソファから立ち上がった俺は、一人ごちて、それから口端を僅かに上げて笑う。悪戯は、得意分野だ(仁王には負けるけどそれは別として)。










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