OR

□パレット
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今日の3限はA・B組合同の美術の時間。仁王や丸井と共に授業を受けると言う事に若干頭痛を感じていた訳だが(彼等は頻繁に問題を起こす)、始まってみれば何と無い事だった。
粘土細工の実習は自らの好きなメンバーと自由に席を変わって行う事が出来る。美術室は座席数が多いので、生徒達は各々自分の好きな席へ動き作業を始め、それはテニス部員も然り。
1番問題視していた仁王は、迷う事無く柳生の元へ向かった。面倒な美術はサボるかと思っていたが、やはり柳生が居るからだろうか。彼独特の猫背で柳生へ近付くと、それこそさながら猫の様に柳生へ擦り寄る。
あまりに自らが抱いていた予想と違い、呆然としてしまった。と、そこに。

「くっそ、仁王の奴…。真田ー、隣良いか?」

丸井がぶつぶつ文句を垂れながら隣の席へ座った。どうやら仁王が柳生と戯れているのがよっぽど気に入らないらしい。特段断る理由もなく、あぁ、とだけ答えた。









丸井を隣にすると騒がしくなるかと後悔するも、それは杞憂に終わる。開始30分後に丸井を眺めると、彼は持ち前の集中力を発揮して黙々と作業を進めていた。部活にもこのくらい真面目に取り組んで欲しいものだ。そんな丸井へ触発され、自らも自分の作品に取り掛かった。

「む、すまない丸井。肌色を貸してくれないか」

着色しようと自らの絵の具道具を開くと、肌色が足りない事に気付く。ならば丸井に借りようと、何の気なしに声を掛けた。

ごっ。

顔を上げぬままにしていれば、突如頭に走る衝撃。あまりの事に丸井から殴られたと気付くまでしばらく掛かってしまう。

「丸井、貴様…!」
「じゃあてめぇは今日からこれも肌色って言いやがれっ!」

丸井を睨み付けるも、丸井の表情が憤怒に染まっている事に驚き、動きを止めてしまう。同じく怒りを含んだ声と共に投げられたのは茶色の絵の具。

「ま、丸井…?」
「茶色だって立派な肌色だろぃ」

意味が分からず問い掛けると、丸井が急に声を萎めた。切なげに眉を歪める丸井に、俺は漸く彼の恋人を思い出したのだった。

「…………すまない」
「や、悪ぃ。俺もごめん」

すっかり怒りの覚めた丸井の言葉に、自分の配慮の足りなさと世界の狭さを思い知らされた。










今度からベージュって言えよな。
肌色なんて、いっぱいありすぎて定めらんねぇんだからさ。













end

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