OR

□おれはこども
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愛してるのその先は、
そして僕等は、
何処へ行くのだろう。



六月の第二土曜日。俺は謙也君と二人、部室におった。他の連中はとっくに帰った後で、まぁ要するに居残りしていちゃこいとっただけやけど。

「雨、止まんな」
「そっスね」

先日から降り続く雨は、相も変わらずしとしとと落ち、まるで止むこと自体を知らないかのようだった。高温多湿であるのだが、何故か際立った不快感も感じない。
でも、雨ばかりを気に掛ける謙也君が居たから、俺は今日から雨が嫌いになるだろうと思った。

「謙也君、」
「ん?何、光」
「愛してるのもいっこ上って何やと思いますか」

唐突だったと、自分でも思う。だが、取り敢えず何かを言って謙也君の気を引きたかった。子供じみた、くだらない行為。阿呆や、俺は。

「俺は、気持ちがこもっとれば愛してるが一番やと思う」
「‥‥そっスね。謙也君、俺あんたのこと、愛してますから」

あらら、大丈夫かって程真っ赤になって。そういうところが無防備で本当に可愛らしくて、でもその反面無防備すぎて不安になる。
そのまましばらく硬直していたが、謙也くんはゆっくりと目を伏せ溜息を吐いた。
彼は一応セットされた頭を気まずそうに掻いて、そして幾分か真面目な顔で俺を見た。
その目が嫌いだ。逃げられない位真直ぐな瞳が嫌い。

「愛してるとか簡単に言うなや。それは将来のお嫁さんにとっとけ」
「俺、謙也君にお嫁さんなってもらうつもりっスわ」
「あんなぁ、俺らまだ中坊やで?それに、」

やめて、言わないで。次に彼の口を出る言葉が容易に想像出来て、全身を苛むような感覚が通り抜けた。自分で蒔いた火種で大火傷だなんて、己の浅はかさに涙が零れそうになるのを必死に堪えた。

「正直な話、俺ら二人とも」
「男だったら何スか」

窓際のベンチに座り雨粒を眺めていた彼の口を右手で塞ぐ。おまけに台詞を被らすように言葉を連ねた。

「いや、やっぱ家族とかのこと考えると、な?」
「知らない、そんなの俺は要らん」
「おまえ、」
「何スか、謙也君は同性やから俺らは無理てや言うんですか?だったら良いっスわ。俺あんたが望むんやったら性転換やって喜んでしますわ。あんたの遺伝子、俺が受け継ぐから、何でもするから、‥‥お願いやから、傍におって下さいよ」





所詮中坊だもの、そう片付けるしかないみたい。1つとは言え、年の差はどうやっても埋められない。仕方無いね、彼の方が大人なのは。俺は精一杯、彼に追い付きたい、追い越したい。でもそれが出来ないのは、彼が俺よりいっこだけ、大人だから。






「光、」
「‥‥‥何スか」
「ちゃんと好きやから」
「そんなの、前から知ってるっスわ。でも、嬉しい」

雨はいつのまにか止んでいた。謙也君と俺は、虹の下を、手を繋いで歩いた。





end

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