OR

□偶発的に発生
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「あかん、人間不信になりそうや!」


登校してくるなりそう言った白石は、肩から鞄も下ろさないまま自らの机に突っ伏した。よっぽど辛いことがあったのだろう、力無くうなだれた彼の頭は、重力に従うまま机の天板とぶつかって、ごっと鈍い音を響かせる。
教室という狭い空間で両手を前に伸ばしながら机に伏せれば、前の席の人の背に手が触れるというもの。白石の前の席に座る忍足は、背中に触れられるのを感じて初めて、白石の登校を知った。大音量でロックミュージックが流れ出るイヤホンを装着して勉強していたら、周囲のことなど簡単に断ち切ることが出来るのだ。

「おはよーさん。どないしたん、ぶっさいくな顔しよって。折角のイケメンが台無しやん」
「俺、もうあかん。整形したい」

はあ?!耳からイヤホンを外し、椅子ごと白石の方を向いた忍足は、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。今の白石の発言は、日本、いや世界中の男性諸君を敵に回すものだった。このキラキラピカピカのイケメンである白石が整形したいなんて言ったら、平々凡々な、忍足含めた残りの人々はもう生まれ直す以外方法はないだろう。容姿に関してはそれくらい恵まれている白石が、ここまで落ち込むということは想像を絶することがあったに違いない。忍足は無意識に手の平をぎゅっと固く握り締めて、真剣な様子で改めて白石に向き直った。可哀相に、未だ机に潰れたままの白石の頭には何やらゴミらしきものが多数付着している。忍足は、それに手を伸ばす、が、ゴミ。じゃない?

「……花?かすみ草?」
「おん!せや!せやねん!ちょ、ホンマ聞いてや謙也あ!もう毎日毎日ナンパされんのは慣れた。慣れたわそら毎日、毎日毎日!毎日毎日毎日毎日!せやけどなあ、初対面の女の子から声掛けられてもどないせえっちゅーん?!最初の頃は俺かて嬉しかったで?当たり前やん!ああ、もうあかんもう嫌や。何が嬉しくて毎日10件近くも携帯のメモリ増やさなあかんのん?!顔も一致せえへんし、そんな子たちからのメールが毎日何十件何百件。欝や、欝になるホンマ。おお、おおう。ガブリエルが見える、見えるでえ!」
「ちょ、落ち着きいや。何やねんこれ、この、花はどないしたん」
「せやったあ!それ忘れとったあ!」

突然マシンガントークを始めた白石に、忍足は、びくうっ!と体を竦ませる他なかった。そんな忍足を傍目に白石はがばりと起き上がり、机をばんと叩く。

「今朝!今朝会った子ぉ!初対面やで?!顔も名前も何も知らんのやで?!なのに、なのに、あ、あぁああ」
「し、白石っ!こらあかん、ちょ誰が小石川呼んで来い!俺じゃ対処しきれん!」

忍足が教室のドア付近に立っていたクラスメイトにそう叫ぶと、彼は一瞬呆けたものの、小刻みに震えながら何だかくねくねしている白石を認識した瞬間、弾かれたように組の方へ走っていった。それを確認した忍足は、普段とあまりにも違う白石に怯えながらも、とりあえず彼の背中を擦ってやるのだった。









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