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□全て春のせいにして
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鯛焼きみたいな形、だなあ。麗らかな日差しの降り注ぐある晴れた昼下がり、春の陽気につられて身も心もすっかり緩みきってしまった小石川は、近所の河原の土手に横たわっていた。部活のない土曜日なんていつぶりであろうか。綿飴のようにほくほくと流れる雲が、どうにも眠気を増す。夏の太陽とは違い、その可視光に含まれる熱量はどこまでも良心的であった。頬がじんわりと温かくなり、心臓の音が耳のすぐそばで聞こえる。直接に触れ合った草や土の香りを胸一杯に吸い込むと、まるでその大地そのものと血が通じたような気さえするのだから、自然とは何とまあ不思議なものなのか。無意識に笑みが零れ、鼻歌が漏れだしたとき、小石川はいっそう幸福感に満ち溢れていた。

「小石川くうん」
「今日は定休日」

甘ったれた声を出すのは白石だ。小石川よりも幾分川に近い河川敷で、一人飛び石に興じている。本来なら小石川も参加すべきであろうし、白石も先ほどから延々と彼の名前を呼び続けていたのだが、小石川は決して起き上がろうとはしなかった。そんな様子の小石川を目の当たりにし、白石が不機嫌にならないはずがない。うろんに眇められたその流麗な眼差しは、川を眺めながらも時折小石川を射た。投げやりに放る石はそれでも、さも当然のように水面へ3度4度体を跳ねさせた。その都度その都度閑静なそこには、ぽちゃんぽちゃんと何とも涼しげな音が響くわけだが、何をしようとも小石川はリアクションすら取らなかった(初めの頃は「おお、すごい」とかそのくらいは言ってくれていたのに)。そうこうするうちに、飛び石に飽いた白石は、とうとう座り込んでしまう。勿論それに反応してやる小石川ではなく。と、いうより閉じた瞼すら開けないのが小石川であった。

「隙あり!」
「んごおっふ!!」

結局は焦れた白石が小石川にタックルすることで、事態は丸くおさまる。休日のお父さんよろしくぐうたらする小石川が、白石は少しだけ、ほんの少しだけ嫌いであった。どちらかと言うとアウトドア派の白石にとって、小石川の「明日休みやん、寝とこ」などという感覚はまるで理解不能である。本当は今日もどこか特別な場所に行きたかったのに。しかし、白石が健気にそんなことを思っていることなど毛頭知らない小石川は、脇腹に叩き込まれた肘鉄にひたすら苦悶するのみである。小石川も小石川で、毎日一緒にいる白石と今更どこかに行くなんて別に考えようとも思っていないというのが事実だった。だってそうではないか、行く場所ではなく一緒にいる人が重要なのだから。

「尻を揉ませろ」
「喜んで、って言うわけないやろセクハラや!」
「部長命令や」
「パワハラすんな」

ぽかぽかの気候に眠さがどうしても拭えない小石川は、白石のされるがままだ。仰向けだった体をごろんと転がされ、俯せにされても、曖昧に唸っただけだった。抵抗しない=了承、などという非常に不真面目な思考の下、白石は小石川の尻へと手を伸ばす。大きな期待をもってタッチしたはずのそこは、意外にも何の感動も伝えてこなかった。この時白石と小石川は同じことを考えていたのだが、それを口にすることはない。(うーん、女の子とはちゃうなあ)(女の子やないんやから触ってもおもろんないやろうに)一度触り始めた手間、さしたる興味もなくなった小石川の尻を軽く突き放すわけにもいかず、白石は俯せのままぐたりとする小石川の尻をテンポよく叩く。










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