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□夏の宝物
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その砂利道は、至極歩きにくかった。東京都内で一大勢力を誇る鳳法律事務所の長男棒である鳳長太郎にとっては、正に青天の霹靂であると言うことが出来るくらいに。とんでもない、強敵であった。

「あ、だっ!」
「何回目だよ。ったく、学習能力のないやつ」

不安定な石の粒に足を取られ、足首がぐきりと変な方向に曲がる。最初の頃こそしっかりと足を踏み締めていたばっかりに、それこそばか正直に足首を捻っていたわけだが、何度も何度もそうしているとどうやらコツを掴んだようで、そろりそろりと踏み出す足は、捻ったとしても痛みはほとんどなかった。ただ、歩行体勢を崩して宍戸の腕を引っ掴むばかりである。

「ほら、立てよ」
「もう無理ですよう」
「びーびー言ってんなアホ」
「だって!何でこんなに砂利道ばっかりなんですか!」
「知るかよ。俺が生まれたときからこうだった。つうか、お前が来たいっつったんだろうが」

宍戸の手を借りて復活した鳳は、そのまま宍戸にべったりくっつこうとするわけだが、それを宍戸が許すわけもなかった。鳳は強引に振り払われた自分の右手を見つめて、がっくり肩を落とす。確かにこうして今まで体験したことのないような田舎までやって来て、整備状態の悪い道路を延々歩いているのは、鳳が宍戸に「宍戸さんのおじいさん、おばあさんに会いたいです」と頼んだからであるのだが、しかし、これ程の山奥に人家があり、更にそれが由緒正しく格式高い氷帝学園に通う孫息子のルーツであるなど、誰か予測しただろうか。宍戸の祖父母に会いたい、という我儘を聞いてくれたことには感謝するが、到着までに試練があることは教えておいて欲しかった、というのが鳳の本音である。この日のためにわざわざ誂えた新作の革靴は、もう既に砂利道特有の石灰質によって、灰色に変化していた。多少無理を言って買って貰った品物なので、家に帰ったあと、母や姉から何と言われるかを考えると、とても憂鬱になる。

「大体、んなバカみたいに格好付けた靴履いてくっからだろ」

そう言いながら軽快に砂利道を上っていく宍戸の足元は、ばっちり運動靴である。そんなことを今更言われても、鳳にはどうすることも出来なくて、やはり定期的に足首を捻っては宍戸にすがりつくのだった。幸か不幸か、先程から太陽が眩しいくらいに輝いている。勿論雨が降るよりは良いのだけれど、それでもやはり標高の高い山で、真夏の直射日光を長時間浴び続けるのはどうにもこうにも精神的に堪えた。

「あっつい、」
「んなこと分かってんだよ!いちいち言うな、あーもう!暑苦しい!」

額に浮いた汗を苛立たしげに拭い、眉間に皺を寄せながら唸った宍戸に、鳳は最早半べそ状態になる。あまつさえこれから宍戸の祖父母に会いに行くという重要な局面であるのに、その宍戸をこんなに怒らせてしまうなんて、人生最大のピンチでだった。鳳は宍戸に何かを言おうとするのだが、その一言がどうしても出てこない。そうしている間にも、宍戸は着々と歩いて、鳳を取り残して行くのだった。











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