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□蓮の花に良く似たそれ
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俺は、むぅ、と膨れて目の前を絶えず動く手を眺めている。自覚は無かったのだが、眉間に皺があったらしい。俺の視線に気付いた蓮二に笑われてしまった。

「何だ、弦一郎。拗ねた様な顔をして」
「む、そうか。いや、そのつもりはなかったのだが」

困った様に告げると、蓮二はまた一つ笑って再び視線を手元へ戻した。
今日は部活が休みの日曜日。部活がある日に比べれば格段にゆとりがあるが、しかし、そうは言っても宿題が出る。昨日は丸一日部活だったので、宿題には一切手を付けていない状態だ。しかも、宿題の範囲がどうも俺が苦手とする分野であり、始めるのも億劫に感じる。どうしようか、と頭を抱えていると、蓮二に声を掛けられた。
そうして今、俺はここにいる。
それにしても。
俺と向かい合う形で座っているこの男は、何故こんなにも美しいのだろうか。さらさらと流れる様に流麗な字を生み出す指先に、思わず釘付けになってしまう。そこから視線を上げればそれこそ何処ぞの人形屋で作られたのではないだろうかと言う程、端正な顔があるのだ。
この様な状況で集中しろと言う方が無理だ、と思う俺は、普通ではないのだろうか。

「弦一郎、先程から百面相しているぞ。少し休憩するか」
「む、あぁ」
「今日の弦一郎は不思議だな」

ことり、と鉛筆を置きながら蓮二が微笑む。つられる様に自らも鉛筆を置き、相手を見つめた。正面から向き合うと、蓮二のあまりの美しさに恥ずかしくなってしまう。一秒とも保たず、すぐに視線を逸らした。

「弦一郎?久方振りすぎて俺との話し方を忘れたか?」

そうだ、そうなのだ。蓮二は至極楽しそうにそれを言うが、俺はそれこそが元凶だと思う。

「いや、その、」

図星をつかれては返す言葉がない。
最近は部活が忙しく、2人きりの時間が取れなかったのだ。部員を含めた会話は勿論あったし、帰りは共に帰っていた。だが今とは話が違う。互いに私服で、更に言えばここは蓮二の家なのだ。それなりの思い出もあるこの部屋に、2人きりでなんて、気恥ずかしくて今すぐ逃げ帰りたいくらいだ。でも、逃げ帰りたいのと同じくらい、いやそれ以上に、この空間から死ぬまで出たくないと思う。
蓮二といると自分の心の内に矛盾が生じるからあまり好きではなかったが、それは蓮二を好く故だと思うと悪くなかった。
あぁ、また矛盾が発生した。













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