OR

□アラウンドユー
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少しだけ遠慮がちに伸ばされた包帯の手は、小さな緑を俺の皿へと移動させた。
彩りの為に様々な料理やスイーツの上へ腰を据えているその緑は、確かに食品であるが、食品たる末路を遂げるものは極少ないのではないだろうか。少なくとも俺はその緑を食品扱いする者に会ったことはない。

「こら、ちゃんと食い」
「いややー、苦いちゅうねん」

小さな緑、もといパセリを俺の皿へ乗せた白石は、おまけに俺が大事に最後まで取っていたポテトフライをいとも簡単にかっさらっていった。確かにパセリは好きだが、だからと言ってパセリ=ポテトフライという訳でもない。人間の心は複雑なものなのだ。

「それ俺の」
「えぇやん、ちょうだい」

手を伸ばして返却を求めたポテトフライは、悲しいかな、あっという間に白石の口の中へ消えていった。むごむごと咀嚼した白石は、何ともなしに俺の夢が詰まったポテトフライを飲み込む。丁寧にも親指と人差し指に付着した塩すら舐めとる。不必要にエロく舌を蠢かす白石に軽い頭痛がした。

「はぁ………、」
「ちょ、エロい目で見んなや小石川ァ!」
「見てへんわ、アホ」

思った通り白石は利き手で俺を指差し、空いた手で自らの体を抱き締める。長身で男前な白石がそんなことしたって、少しも可愛くない。というか、ここが子供からご老人方までが利用するファミリーレストランだということを忘れているんじゃなかろうか。

「嘘吐くな。エロいこと考えたやろ」
「はいはい、考えた考えた」

相も変わらずしなを作って上目遣い(必死に上体を倒して無理矢理)に見上げてくる白石は、世界で2番目くらいにしつっこい(因みに1番目は醤油の染み)。どうせ否定してもうん、というまで追及されるのだろうからさっさと頷いておいた。
部長である間はきちっとして何でも完璧にこなすくせ、俺と2人になると我が儘で面倒臭いナルシストになるから堪ったモンじゃない。

「健二郎、最近ムカつく。」
「何がや」
「知らん」

俺が肯定を示したことであの気持ち悪い動きをやめ普通に戻ると思っていた白石は、何故か不機嫌になった。右手で頬杖をつき、左手はフォークを持ちプレートの隅にあるエビフライのしっぽとタルタルソースを弄っている。長い睫毛を備えは両の瞳は伏せられていて、カチャカチャと鳴るフォークの先端を凝視している。

「どないしたん白石」
「知らん」
「言わな分からん。白石」
「知らん知らん知らん」

頑固者な白石は、俺が何と言っても取り合ってくれなかった。視線すら合わせてくれず言葉の端々には苛々が滲み始める。












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