OR

□ぼくのつうしんぼ、ひとえまる
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「赤澤っ!」

今日も今日とて聖ルドルフ学院中等部には、男子テニス部プレイングマネージャー観月はじめの声が響く。男性にしてはやや高めのその声が紡ぐのは、いつもと変わらず俺の名だ(因みにテニス部部長の赤澤吉朗)。ばん、と大きな音を立てて教室のドアを開けた観月は、怒りを著わにしてずかずかと俺のところに歩いてきた。

「何だよ観月、あんまり叫ぶと血管切れるぞ」
「うるさいっ!元はと言えばお前の所為だ!」

わざわざ教室にまで押し掛けて文句を言いにくる観月は、もう人を怒ることが生き甲斐なんじゃないかって思えるくらいだ。何でもかんでも適当な俺を、世話焼きで甲斐性の観月はきっと放っておけないのだろう。

「今日は何だよ」
「昨日のメニューの件です」

仕方なしに対応してやると、徐々に観月の激昂も治まってきたようだ。教室の隅で普段と違う観月はじめに怯えていた女子も興味深げにこちらの様子を伺っている。そりゃあそうだ。なんたってあの知的で容姿端麗な学園の天使が、先程まで表情を憤怒の色に染めてぎゃあぎゃあ騒いでいたのだから。

「あ、あれか。すまん」
「な…!本当に反省してるんですか?!」
「してるしてる」

彼の持ってきた昨日の練習メニューが、俺の勘違いで一部おかしなことになっていたのは紛れもない事実だ。だから素直に謝ったというのに。今度は俺の謝り方がどうにも気に入らないらしかった。ここまで来ると何だか観月はお袋のような気がしてくる。本当の親よりよっぽど口煩く俺の行儀なんかを注意するから、少しずつ俺は観月が言うところの"上品"な振る舞いが分かってきたくらいだ。

「わーるいって」

今度1回目より少し罪悪感を募らせたような声色を出してみる(おまけに両手を合わせた謝罪のポーズつきだ)。
そうすると観月はぐ、と言葉に詰まり、吊らせた猫目を俺から逸らした。その際に小さく聞こえた舌打ちは俺の思い違いということにしておこう。

「……次からは、気を付けて下さい」
「おう、」

僅かばかり苦々しげに言葉を吐く観月は、相変わらずに不機嫌だ。俺が素直に謝ったから、その所為で勢いを削がれてしまったようだ。先程まであんなに憤怒に燃えていた瞳は、次は伏せられて物憂げに揺れている。何だか俺の方が悪いことをしたみたいだ。

「観月、」

名前を呼んでみるとゆっくりと顔が上げられた。それは天使と称されるのに相応しく整っているが、やはり少年らしさが残っており、美しさより愛らしさが勝る。
どっちにしたって美少年であることに変わりはないのだけれど。






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