□髪切り虫
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「変態じゃお前さん」
「それはどうも」

鞄の蓋を閉め終えた柳生は、いよいよ俺の髪(勿論生えている方)に手を伸ばした。ここで真っ直ぐ柳生を見つめて気付いたが、左側の前髪は特に短いらしく、首を傾げて髪を避けずとも柳生の顔がばっちり見える。眉よりも上にぱっつん前髪があるのかと思うと、自分がしでかしたとはいえ、若干うんざりしてしまった。

「髪の毛持ってくとか、キモいんじゃけど」
「おや、それは失礼。でも貴方も、私のなら持ち帰られるでしょう」

さわさわと緩く俺の髪を撫でる柳生は自信満々な表情をしていて何だかムカついた。ムカついたが、彼の言うことはあながち間違いではないから余計タチが悪い。

「誰が持ってくか」

口では冗談粧しの暴言を吐きながら柳生の方へ体を傾けると、そのまま栗色の襟足へ噛み付いてくい、と引っ張った。柳生の身体は一瞬強ばったものの、俺のしたいことが分かると容易に力を抜いて首元にある俺の頭を撫で始める。がちがちと遠慮なしに歯を噛み締めると、俺の犬歯に生命を断たれた髪の毛が口の中に残って気持ちが悪い。

「こら、」

俺の行為を叱る柳生の声色はどこまでも優しく、そして甘い。形だけの仕返しとばかりに、柳生の顔は俺の頭へ埋められ、そして俺と同じように髪の毛を口に含み咀嚼する。頭皮が引っ張られて何だか不思議な感じがした。

「こら、」

今度は俺の声。こちらも驚く程甘い響きを含んでいる。その声色に自分で恥ずかしくなって照れ隠しに埋めた首筋をべろりと舐め上げてやった。柳生の身体がひくりと揺れる。

「仁王くん、後で一緒に美容院行きましょうね」

俺の行動に促されるように、柳生の右手は俺のTシャツの裾から中へ入り込む。ついでに顔を上げさせられ、額を思い切り舐め上げられた。柳生は俺の顔中に口付けを落としながら横腹を長い指で擽るから、思わず体を捩ってしまう。愛撫というより悪戯の範疇であるその行為に俺は必死で逃げ、柳生も負けじと追い掛ける。

「く、ははっ。降参降参」

堪えられなくなって思い切り吹き出すと、柳生はすっと動きを止めた。擽られた名残で笑いの止まらなくなった俺は床をばんばん叩きながら身悶え、そんな俺を見た柳生もまた自然と喉を鳴らし始める。

「何ですか、仁王くん。笑いすぎですよ」

なんて、声を震わせながら言われたんじゃこっちがお前の笑いすぎだと言いたくなる。こうなったらもう止まらない。笑いに笑いが連鎖してどうにも収集がつかなくなるのだ。











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