□髪切り虫
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どうにかこの状況を打破したい柳生は、俺の口を塞ぐという強行手段に出た。仰向けでひーひー言いながら笑う俺の口に、柳生はやはりくすくす笑いながら掌で蓋をする。俺は堪ったもんじゃない、とその掌をべろりと舐め上げてやった。驚いたように手を引く柳生のその表情すら、俺には面白い。

「まったくあなたは、」

次は何をしてくるかと身構えていると(勿論爆笑しながら)柳生は何と自らの口で俺の口を塞いできた。開かれた俺の咥内に何の躊躇もなく熱い舌が割り込んでくる。ここで柳生がちょっとでもシリアスな雰囲気を持っていればそういった空気になったかもしれないが、残念なことに柳生も笑っているからキスは拙い触れ合いにしかならない。
相手の口へ空気を吹き込み、吹き込まれ、途中で大きく息をつぐ。それでも尚流れ込んでくる唾液と二酸化炭素を十二分に含んだ空気によってどうしても苦しくなるからやはり口を離さなければなかった。そして離した時には俺も柳生も笑っているから本当にバカみたいだ。

「やーぎゅ、タンマタンマ!」
「だめです」

とうとう苦しさに我慢が効かなくなって顔を背けるも、柳生は俺の顔を追跡してくる。俺が完璧に下を向いて口付けることが不可能と分かると、ならば仕方ないと頬に噛み付いてきた。甘く噛んでは舌でなぞる。

「きもっ」
「気持ち悪くて結構」

気持ち悪い、筈なんだけど。でも、きっと1番気持ち悪いのは気持ち悪いことをされて喜んでる俺なんだろう。口では色々言いながらも、結局は柳生の真似をして彼の頬へ唇を滑らすのだ。














「あー楽しかった」
「疲れましたが、」

あれから散々戯れ合った後、俺と柳生はそれぞれに痛む腹筋を抱えながら休戦の協定を結んだ。床の上へ寝転び、乱れた息を整える。中学生男子のプロレス擬きな戯れとはいえ、相当な体力を使う競技だ。
俺はうつ伏せた状態で仰向けの柳生へ手を伸ばす。それから軽く柳生の服の裾を捕まえると思いっきりその懐へ潜り込んだ。

「どうされました?」
「疲れた。お昼寝しよ」
「ふふ、そうしましょうか」

その後固い床で寝ることに柳生は物凄く抵抗を示し、無理矢理にでも俺をベッドへ引き上げようとしたが、俺は頑として動かず、あの柳生比呂士をフローリングで寝せることに成功した(潔癖な柳生が床で寝たなんて今世紀最大の奇跡だ)。


















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