□蝶々結び
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「のぅ、柳生はやきもち焼かんの?」

未だ残暑の厳しい9月末、学校からの帰り道、右隣を歩く柳生へ尋ねてみた。いつだかの丸井とのやり取りを不意に思い出したからだ。ちらりと見上げた真昼の太陽はギラギラと輝き、忌々しいほどだった。

「突然ですねぇ」
「そうかの?」
「えぇ、」

柳生に言われてから考えてみると、案外そうかもしれない。丸井が女々しいと称すだけあり、俺は出来るだけこの手の話題を避けていたのだろう。そう思うと何だか少し格好悪い質問をした気がして、今更気恥ずかしくなった。視線を下ろし、目の隅に捉えた小石を蹴り上げる。暫くころころと転がった小石は、道路脇にある排水溝へ吸い込まれるように消えていった。

「仁王くんは、どうなんですか」
「何が」
「嫉妬されます?」

下を向いている所為ではっきりとは分からないが、柳生が俺の横顔を眺めながらにこにこしているのが気配で伝わってくる。答えが分かっているのに聞いてくるなんて、本当に食えない奴だ。
丸井の言葉が脳内をちらつく。言ってしまった方が良いのだろうか。暫く思案したものの考えは纏まらず、柳生に促されるまま俺は僅かに頷いた。

「ふふ、そうですか」
「む、やめい」

ふっと笑った柳生は、何でもないかのように自らの左手を俺の右手に絡めてくる。
暑さのあまりべたべたと汗ばむ手を繋ぐのは決して気持ちの良いものではなく、俺は軽く手を引っ張って離すよう促したが柳生はそれを許してはくれなかった。それどころかますます強く握ってくるから居心地が悪くて困る。

「お前さん、ほんにムカつくやっちゃの」
「それはどうも」
「褒めちょらんし」

人通りの少ない住宅街だから繋いだ手はそのままにさせておいたが、やはり悔しいのでその手を無駄にぶらぶらと揺らしてやる。そうしたら柳生は尚更気乗りしたかのように俺に合わせて手を振り始めたりするものだから、今度こそ俺はどうしたら良いか分からなくなった。極端に機嫌の良くなった柳生は、面倒臭くて尚且つ少しばかり気持ち悪くなるから厄介だ。俺はいつか右隣から鼻歌が聞こえてきやしないかとひやひやしていた。

「で、お前さんは」
「はい?」
「答え聞いちょらん」
「あぁ、そうでしたね」

上機嫌な柳生に聞くのは少々不安を感じたが、自分だけが曝け出して終わるのはどうしてもフェアじゃない気がしたから尋ねておく。
ろくな答えを期待していたわけではないが、やはりと言うか何というか、柳生は想像以上の返答をしてくれた。
こいつと付き合ってて良いのか俺、とか思ったことは俺だけの秘密だ。
















「嫉妬ですか。いえ、しませんよ」
「なしてよ」
「だって仁王くん貴方、」























「私のこと好きでしょう?」


















仁王くんが乙女すぎた件。

end
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