□世界の中心
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それから部活が始まって、俺とジャッカルの間に不穏な気配があるのに皆気付きだした様だ。あの真田でさえがいつもと違う皺を眉間に刻んでいる(仁王だけは楽しそうだが)
しかし、今日は日が悪かった。特別練習としてダブルス強化が入っていたのだ。嫌でもジャッカルと同じコートに立つ事になる。

「柳生と仁王、ジャッカルと丸井、それぞれコートに入れ!」

皇帝らしい威厳ある声が、これ程精神的に堪えるものなのかと、今更ながらに思った。仕方無いかとラケットを握れば、ジャッカルと目を合わせぬ様に自分のポジションに付く。やる気なんて欠片もある筈なかった。
























4ゲーム終了の時点で4-0を示すスコアボード。勿論俺達が勝っている筈がない。それどころか、俺達の取ったポイントは片手で足りるんじゃないだろうか。
原因はただ、俺。ジャッカルは必死にサポートしてくれた。取れる球を当然の様に見逃す俺を、掛けられた声に応えない俺を。ジャッカルはひらすらに守ってくれたんだ。
コートチェンジの際、見兼ねたであろう柳が声を掛けてくる。

「丸井、一度頭を冷やして来い」

俺はそれすらも無視してネット前の前衛ポジションに立った。ネットを挟んだ向こうにいる柳生が何とも困った様な表情を浮かべている(仁王は楽しそうだが)。
その時、視界の右端にいた真田が近付いて来るのが分かった。あぁ、俺、殴られんのかな。それも良いな。それで全部すっきりさせたい。
真田に向き直そうとした刹那、油断しきった俺は、シャツの襟を勢い良く引く力によって後へ振り返る事になった。










ぱんっ











はぁ、はぁ。
右頬に走った鋭い痛みよりも、眼前で息を乱すジャッカルの表情が先に頭に到達して、何も考えられなくなった。引っ張られたままの襟は俺の身長には些か高過ぎて、苦しさから爪先立ちになってしまう。

「俺がむかついてるならそれで良いけどなっ、テニスにまで私情を持ち込むな!」

それは、生まれて始めてジャッカルから受けた叱咤だった。言葉を理解した瞬間、ぐにゃりと視界が歪む。ばかばかばかばか。
悪いのはお前なんだ。


















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